映画鑑賞備忘録

突然ですが、最近は映画館に行ける余裕もあまりなく... 主にTVで観た旧作映画の感想など思うがままに書き綴っています...。

28)トータル・リコール(2012年)

トータル・リコール (2012年 米)

 
1990年に制作されたアーノルド・シュワルツェネッガー主演の同名SF作品のリメイク。
 
シュワちゃんの方の旧作(以下、旧作)は、映画館にも観に行っていてその後も何度となく鑑賞している。
火星の税関でおばさんの顔が細切れになり、その下からシュワちゃんが登場!とか、火星大気に生身で放り出されて目玉が飛び出る描写など、アクの強い映像で印象に残る良作であった。
 
さて本作はそのトータル・リコールの正統派リメイクなのだが、始まってすぐに旧作とだいぶ趣が違うことに気づく。
本作の世界観は、シュワ版の旧作よりもむしろ原作(フィリップ・K・ディック作)を同じとする『ブレードランナー』に近いかもしれない。
日本語を始めとしたアジア系言語が、主人公が住む貧民層の街「コロニー」に氾濫していて、どことなくシュールな印象を与える映像である。
 
そして、旧作と最も違うのが舞台設定だ。
旧作の主な冒険の舞台は“火星”だったが、本作において主役のクエイド(演:コリン・ファレル)が大暴れするのは、地球上のちょうど反対側に位置する欧州を領土とした「ブリテン連邦(以下、UFB)」になる。
 
前述の「コロニー」と「UFB」以外の地域は化学兵器の使用により居住不可能になったという設定で、コロニーの貧しい住民は、地球のコア(中心)を通る巨大なエレベーター「ザ・フォール」に乗って、UFBへ毎日通勤しているというアイディアが面白い。
さらに、舞台が火星ではないので、旧作での“テラフォーミング”オチを使えない訳だが、ラストも旧作ファンの期待を大きく裏切ることなくうまくストーリーをまとめることに成功している。このあたりの脚本のうまさはさすがハリウッド製大作映画の面目躍如と言ったところか。
 
特撮においても、旧作では手作り感が漂うおどろおどろしいイメージのものだったが、本作は全編に渡りCGで作られていて、より洗練されてスマートなデキになった。ここは制作年度の新しさを感じるところだ。
 
また、旧作よりもさらにアクションに重きを置いている印象で、UFBでのホバー(空中)パトカーでのカーチェイスや、クエイドとメリーナ(本作ヒロイン)への追跡劇、格闘シーンなど手に汗握る展開もふんだんに用意されている。
 
そして何より、主人公・クエイドの妻役にして敵役のローリーが旧作に比べ数段パワーアップしていてびっくり。
旧作のローリー(演:シャロン・ストーン)もその妖艶な魅力に似合わぬ戦闘能力で印象に残ったキャラクターだったが、本作のローリー(演:ケイト・ベッキンセイル)は、旧作の比ではない高い戦闘力でクエイドを激しく追い詰める。このお話の悪だくみの黒幕であるコーヘイゲンを完全に食ってしまう悪役っぷりが実にえげつない。
 
ケイト・ベッキンセイルといえば、その美貌と長身かつプロポーション抜群な容姿から勝手に“おしとやかな女優”というイメージを持っていたが、本作での悪役はいい意味で期待を裏切られた。
シャーリーズ・セロンのように、美形アイドル/演技派/アクション、どれでもOK!的な万能女優を目指せる素材かも..と思わせる熱演だった。
 
本作は、特撮も一定水準以上にクオリティーが高くまた迫力もあり、最後まで飽きさせない適度なサスペンス・アクション映画に仕上がっていて、それなりに面白い作品であった。
ただ、旧作のポール・バーホーベン監督によるあの独特の世界観も自分としては捨てがたく、いやむしろ、旧作を観たときほどのワクワク感は正直味わえなかったコリン・ファレル版でした。
 
私的評価:★★★☆☆

27)グラン・トリノ

 

グラン・トリノ (2008年 米)

クリント・イーストウッド監督・主演作。

 

ちょっと前に同じイーストウッド監督の『インビクタス(20 インビクタス/負けざる者たち - 映画鑑賞備忘録)』を観ていて、あれも実際観てみるまでタイトルの意味がさっぱり分からない映画だったが、今回も当初タイトルの意味がよく分からなかった。
グラン・トリノ?イタリアの街が舞台の映画?程度の知識で見始めたのだが。
 
グラン・トリノ」とは70年代に製造されたフォード車の名称だそうだ。主人公のウォルト(クリント・イーストウッド)の愛車である。
全編を通してウォルトがこの愛車に乗るシーンはないのだが、自宅ガレージで頻繁にメンテナンスしており、非常に大切にしていることが伺える。
 
ウォルトは朝鮮戦争に従軍している元軍人で、兵役後はフォードの工場で長年勤め上げた自動車工でもあり、かつては祖国のために命を賭して戦い、戦場では何人もの敵兵をその手にかけた苦い経験を持つ。
 
妻にも先立たれた頑固な偏屈老人は、いよいよ人生の終盤に差し掛かり、自分のお思い通りにならない親族や周囲の冷たい目線、あるいは世代間ギャップとも言える時代の変遷に苛立ちを隠せない。
昼間から自宅の玄関ポーチで缶ビールを何本もあおり、離れて暮らす自身の息子家族や、移民が増えて治安が悪化していくわが街の姿に日々悪態をつきながら孤立していくウォルト。
 
そんな中、隣家の東南アジア系移民の少年タオが、同じモン族の不良たちにそそのかされ、ウォルトのグラン・トリノを盗もうとしているのを発見する。
物語はこの事件を契機に、モン族一家のその飾らない温かみに触れ、次第にタオやその姉スーと心を通わしていく様子が描かれる。
特にタオに対してはまるで父親のように接し、建築関係の仕事の世話や、この街で男として生きていくためのノウハウ、工具の使い方などを徹底的に教え込む。そう、実の息子では叶えられなかった自身の生き様をタオに刻みつけるように。
 
そんな平和な時間も束の間、タオたちを快く思わない同郷のギャングたちが執拗にタオやその家族にちょっかいを出してくるという雲行き怪しい展開に... ついには、いさかいにケリをつけるため単身モン族ギャングのアジトに向かったウォルトだったが・・・。
 
かつてイーストウッドが演じてきた、ダーティハリーマカロニ・ウェスタンのヒーローのどれとも違うカッコよさ。
そこには単なる自己犠牲のヒロイズムとしては片付けられない深い想いが垣間見える。
 
この映画をもって、演者としては一旦身を引く覚悟を決めたクリント・イーストウッド。まさにこのシーンに自身の役者人生の集大成を投影しようとしたのかもしれない。ウォルトの最後の決断に、イーストウッドが今まで演じてきた数々のキャラクターが交錯して見えた。
 
余談だが、イーストウッドはこの映画で役者として引退表明したものの、その後2012年に『人生の特等席』という作品で、年老いたメジャーリーグスカウトマンという役を好演している。この映画も観たが、なかなか味わい深い演技で、自分はウォルト・コワルスキー役よりもこちらの方が好きかもしれない。
 
タイトルの『グラン・トリノ』は、実は直接的にはストーリーにあまり絡んでこないが、人(登場人物)との繋がりを語るうえで欠かせないアイテムとして登場する。なるほど、このパターンはイーストウッド作品では名作『ミスティック・リバー』に雰囲気は似てるかもしれない。
 
ただし、衝撃的なラストこそあまり変わりばえしないものの、不思議と『ミスティック・リバー』や『ミリオンダラー・ベイビー』ほど本作は後味が悪くない。
ネタバレになるが、この映画は、ウォルトの遺言により譲り受けたグラン・トリノに乗り、風光明媚な海岸線を流すタオの、どこかはにかんだ笑顔で終幕する。
このラストシーンがあるおかげで観客は救われる。ウォルトの生きた証が脈々と受け継がれていることを示唆させる心憎い終わり方だ。
 
私的評価:★★★★☆

 

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26)風立ちぬ

風立ちぬ (2013年 日本)

 
宮崎駿監督によるスタジオジブリ作品。
ご本人曰く、生涯最後の長編監督作品なのだそうだ。まあ以前の作品でも同じようなことを言っていた記憶があるので、これに関してはあまり信用しない方がいいかもしれない。
 
零式艦上戦闘機の設計者として知られる堀越二郎の伝記と堀辰雄著作風立ちぬ』を融合したファンタジーというぐらいの前提知識しか持たずに今回鑑賞した。
のっけから宮崎監督お得意の大空への憧れが画面いっぱいに広がり、飛行機や風景、人物らが風を受ける描写が実に心地よい。この辺りの描き込みの細やかさは、さすがの出来栄えである。
 
宮崎監督にとっては初めてと思われる、実在の人物がモデルの主人公だけあって、他の宮崎作品とは一線を画す展開。
ストーリーのベースに歴史的背景があるだけに、いつもの「子供と楽しく鑑賞できるアニメ」とは言い難い作品に仕上がっている。
 
主人公の二郎がゼロ戦設計に至る経緯をメインに物語は展開されるが、そこに妻・菜穂子との恋を絡めていく、いつになく大人な内容。
ただ、やはり”慣れてない”せいか、その恋愛描写がややぎこちなく、なぜそこまでお互いに惹かれあったのか?といった心情の動きが省略されている感じがして、最後まで違和感が拭えなかった。素人声優による抑揚のない平凡な演技もそんな感想に影響しているかもしれない。
 
宮崎作品の中では、私の好きな『紅の豚』に何となく雰囲気は近い気がする。
少なくとも近年の『崖の上のポニョ』や『ハウルの動く城』よりは楽しめた。
ただし、観ている間はそれなりに楽しめたものの、あまり心に残るものがない映画だった。
現に鑑賞してから一週間程度経過するが、もう既に結末が思い出せない。
 
私的評価:★★☆☆☆

 

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25)そして父になる

そして父になる (2013年 日本)

 
公開当時カンヌ映画祭に出品されたり、国内の種々の映画賞を賑わした話題作。
是枝裕和脚本・監督作品。主演は福山雅治
出産した病院での子供の取り違えをテーマにした日本映画である。
 
是枝監督の作品はこれまで観たことがなかったし、かなりの話題作だったので期待して観たのだが、はっきり言って面白い映画ではなかった。
特別感動的といったこともなく、感極まって泣けるようなシーンも皆無。
ただ面白くはないが、最後のシーンまで目が離せない、こういう映画は意外と珍しい。
 
主演の福山雅治は、私にとっては「本業はミュージシャン」という先入観が強いせいか、これまで役者としてはあまりパッとした印象がなかった。
ところが、この映画での福山は、自分に絶対の自信を持つエリートというキャラクターを「素の福山雅治は実はこんな感じなのでは?」と思わせるくらいに好演している。
その信念に基づき、子供も自分の思い通りにしようとする立ち振る舞いが、ついには妻の尾野真千子からも眉をひそめられるようになってしまう様が、いつもカッコいいイメージの福山雅治とは一線を画す。
 
共演陣の演技も嫌味なく自然で好印象。
取り違えの相手方であるリリーフランキー真木よう子夫妻は、その木訥とした子煩悩ぶりが福山家とは対照的に描かれていて、観る者の感情移入を誘い、さらに福山雅治をカッコ悪くすることに一役買っている。
そんなカッコ悪い福山雅治が徐々に父性に目覚め始めて… 文字通り「そして父になる」過程がこの映画の見どころといえよう。
 
子を持つ親の目線から観ると、もし自分がその立場だったらどうするか?という問い掛けを投げかけてくる映画な訳だが、当然そんな難問の答えはそう簡単には出せようはずもない。
映画の中においても最終的な判断はそれぞれの観客に委ねられる。
シナリオとしての最後の決断は出てないの?と不満に思う向きもあるだろうが、いかにも日本映画的なこの曖昧な終わり方は、まあこれはこれでアリだろう。
 
私的評価:★★★☆☆

24)ミスト

ミスト (2007年 米)

 
原作:スティーブン・キング、監督:フランク・ダラボンによるホラー、というよりもジャンル的にはモンスターパニック映画になるだろうか。
 
キング+ダラボンといえば、あの『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』という傑作を生み出している名コンビな訳だが、さらにこの作品には「後味の悪い胸糞映画」だとか「衝撃的過ぎる結末の映画」といった称号が付けられていると聞く。これは否が応でも鑑賞前の期待は高まるというもの。
 
山あいの田舎町を覆いつくした濃霧の中にいる"何か"に恐怖し、町外れのスーパーマーケットという閉塞的な環境の中で常軌を逸していく住民たち。
果たして霧の中には何がいるのか? 残された人々の運命はいかに!? 
 
出演者にメジャーな俳優が見当たらないとか、意外にも始まってすぐにその姿を表すクリチャーのありきたりな造形…等、ジェームズ・キャメロンの処女作『フライングキラー』を思い起こさせる、そこはかとないB級映画感が漂う前半の展開。
 
正直見たことを後悔し始めたのだが、中盤以降で、「神の預言者」を名乗るおばさんを中心に狂信的な人々が結束し始めた頃から様相が一変、目が離せなくなってしまった。
そして終盤にかけて、この作品がただのモンスターパニック映画ではないことに気づかされる。
怖い。しかも本当に怖いのは霧の中の怪物ではない。そこにいる人間自身と言いたいのか。
 
ショーシャンクの空に』とは全く対極的なバッドエンド。
これはかなり好き嫌いが分かれる結末であろう。特に日本人には理解しがたいだろうね、私を含めて。
ラストの解釈はさておき、ホラーやパニック映画が生理的に受け付けない人を除いて、一度は観てみてもいいんじゃないでしょうか、この映画。人間の本質みたいなものをやや斜め方向の角度から考えさせられる。
 
前述の通り、中盤までは何となく既視感のある展開でダルい感じがするものの、そこを我慢してとにかく最後まで観てみることをお薦めします。
 
私的評価:★★★☆☆

 

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23)ダークナイト ライジング

ダークナイト ライジング (2012年 米)

 
いわゆるクリストファー・ノーラン監督版の『バットマン』シリーズ三作目にして完結編である。
 
まず初めに告白したい。2作目の『ダークナイト』を最初に観た時、なんでこんなに世間の評判がいいのか?正直よく分からなかった。
(『ダークナイト』は映画ファンの間で非常に評価が高い作品として有名)
ダークナイト(バットマン)とホワイトナイト(ハービー・デント)の対比、自らの正義感や強さが作り出してしまう絶対悪という自己矛盾への葛藤など、複雑なテーマ性は垣間見えたものの、映画をあくまでエンターテイメントとして捉えたい私にとっては今ひとつ楽しめず、宿敵ジョーカー役の今は亡きヒース・レジャーの怪演しか印象に残らなかった。
 
という訳で、私的には消化不良気味に終わった、前作『ダークナイト』を受けての本作であり、あまり大きな期待を持たずに今回鑑賞したのだが・・・
 
ノーラン版バットマン=ダークナイトシリーズに共通して言えることだが、今作も一見するとどこか哲学的で難解なイメージを受ける。初見では、なかなかストーリーについて行けないというのが率直な第一印象だった。
 
案の定、一度観ただけでは何だかよく分からず、観終わった後に頭の中に「?」しか残らなかったので、時間を空けずにもう一度最初から見直してみたところ、「ん?ひょっとして...」
でもまだしっくりこず、
三度目を今度は途中から鑑賞して…「おー、そういうことか!」
前作から続いていたモヤモヤが一気に晴れていく感覚。三度見してようやく納得のラスト。意味が分かると、何のことはないスッキリする結末である。
なるほど。このシリーズはあくまで三部作全体でひとつの物語であり、2作目『ダークナイト』の終了時点で"消化不良"に感じたのもある意味当然だったという訳か。
 
故に、本作を観るにあたっては『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』は必ず復習してから鑑賞することを強くお薦めしたい。
でないと、本作の面白味が半減してしまうこと請け合いである。
 
ノーラン版バットマンはアメコミヒーローを題材にしつつも、全く子供には向いておらず、大人による大人のための作品だと思う。
事実、スパイダーマンは喜んで見るウチの小学生の息子も本シリーズには全く興味を示さなかった。
さらに、昨今多くの映画で目にする重力を無視したようなワイヤーアクションとは一線を画す、重くリアリティのあるアクションシーンなども、派手さはないが、ある意味大人向けの演出と言えよう。
 
ただし、そのようなリアルさを追求する方針にしてしまった代償で、逆に脚本のアラが見えてしまうところもあり、そこが前作『ダークナイト』ほどの評価をもらえていない要因かもしれない。
人間とはわがままなもので、アメコミヒーロー映画であったら許せた場面も、リアリティのある人間ドラマだと許せなくなったりする。
 
今作においても、主役のバットマン=ブルース・ウェインを演じるのはイギリス人俳優のクリスチャン・ベール。決して超人ではない、あくまで普通の人間であるブルースの「挫折」や「葛藤」、その先の「復活」そして「伝説へ・・・」までを違和感なく演じ切っている。正しく集大成として"演じ切った"と表現するのがふさわしい熱演ぶり。
共演陣もシリーズを通してのお馴染みの面々が顔をそろえる。
市警本部長にまで出世したゴードン役のゲイリー・オールドマンの八面六臂の大活躍。
また、ウェイン社重役、フォックス役のモーガン・フリーマンの常に冷静で抑えた演技も渋くてカッコいい。
さらに、今作で初登場のアン・ハサウェイ演じるセリーナ・カイル(キャットウーマン)も、歴代バットマンシリーズのヒロイン史上最もセクシーでキュートな存在感をもって好印象。(はい。アン・ハサウェイ、単なる個人的な好みです)
 
そんな共演陣の中でも最も印象に残るのは、ブルース家の執事・アルフレッド役のマイケル・ケインだ。
過去二作においても、事あるたびに含蓄のあるお言葉を発して泣かせてくれるアルフレッドだったが、今作においてもこの人のセリフが妙に頭に残り、そして胸を刺す。
若干ネタバレになるが、ラストシーンのアルフレッドの自然な表情といったら! セリフが全くないシーンにも関わらず涙腺を刺激する演技に完全にやられてしまった。
そして、これでやっぱり続編はもうないんだな..と確信できる終わり方が素晴らしい。
 
この映画の結末は、私にとって、これまで観た映画の中でも指折りのラストシーンとなったことを申し添えておきたい。
 
私的評価:★★★★★ 

 

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22)はやぶさ映画2本

はやぶさ/HAYABUSA (2011年 日本:20世紀FOX
おかえり、はやぶさ (2012年 日本:松竹)

 
今回は、2010年に無事地球に帰還して一大センセーションを巻き起こした小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトの映画化作品を、たまたま2本立て続けに観たので、まとめて感想を書き留めたいと思う。
 
はやぶさ映画は、2011年から2012年にかけて各配給会社より相次いで3本制作されたと記憶している。
今回鑑賞したのは、このうち最初に公開された『はやぶさ/HAYABUSA(以下、FOX版)』と最後発の『おかえり、はやぶさ(以下、松竹版)』である。
 
2作品とも同じテーマを下敷きにしているので、はやぶさの2003年の打ち上げから小惑星イトカワへのタッチダウン、そこから地球に微粒子サンプルを持ち帰ってくる紆余曲折まで、大まかなストーリーの流れはどちらも似通っている。というか全く同じと言っていい。
さらに、どちらの映画も宇宙航空研究開発機構(JAXA)の職員である若き架空のキャラクター(FOX版は竹内結子、松竹版は藤原竜也と杏)の目を通じて、プロジェクトの一連のエピソードを描いているところまでもほぼ一緒と言って差し支えないだろう。もちろんそれぞれのキャラクターの立ち位置、背景などに若干の差異はあるが。
 
他方、はやぶさミッションに対するアプローチの手法においてそれぞれの考え方に大きな違いがあるようだ。
 
FOX版の方は、打ち上げ前の計画の段階から、打ち上げ ~ 運用に至るまでのエピソードを淡々と時系列に追いかけていき、よりリアルさを追求している。それはまるでプロジェクトX的なドキュメンタリーを見ているようでもある。
ただ事実を淡々と紹介しているだけだと映画としての面白味がなくなるのを嫌ってか、探査機はやぶさをキャラ化(擬人化)し、はやぶさ自身の目線で観客に訴えることにより、ストーリーに程よい起伏を与えていると感じた。
(このはやぶさのキャラ化という手法は、JAXAにおける活動を広報するために作られたパンフレット『はやぶさ君の冒険日誌』として実際に綴らたもの)
 
また、竹内結子演じる新米研究員のほか、対外調整/広報担当教授役の西田敏行はやぶさのプロジェクト責任者である川口淳一郎博士役を演じた佐野史郎など、非常にバランスがいい配役で、見ていて違和感なく映画に没頭できた点も評価していいと思う。
 
一方でリアルさを求めたゆえの代償と言えるかもしれないが、プロジェクトの進行以外の人間ドラマの部分については"やや弱い"と思って観た方がいい。
竹内結子が宇宙を目指すきっかけを与えた「亡き兄への想い」以外は特に感情に訴える描写もなく、そういうものを期待する向きにはあまり面白くない映画になっている。良くも悪くもドキュメンタリータッチなのである。
 
松竹版の方は「失敗からの前進」がテーマの根底にあり、そもそもはやぶさの成功要因のひとつには火星探査機「のぞみ」の失敗があった..という構成になっているのがFOX版との大きな違いであろう。
一連のはやぶさの運用に絡め、のぞみプロジェクトで失敗した父(三浦友和)に対する、はやぶさ技術者の息子(藤原竜也)の反発 ⇒ 葛藤 ⇒ 相互理解といった人間ドマラが描かれる。
 
こちらはFOX版ほどJAXA相模原キャンパスや臼田観測所でのやり取りにはリアルな印象を受けないのだが、小学生向けの宇宙授業のシーンなどで子供を使い、専門的な部分を分かりやすく説明しようとしているくだりは非常に好感が持てた。
 
また、上記父子のエピソードのほかにも、JAXA研究員(ココリコ田中)の家族の病気などをはやぶさの帰還と同期させながら映画を盛り上げようとしているのだが、ここの物語部分はちょっとツメが甘く中途半端な描写になっており、いまいち感情移入できなかったというのが正直なところ。
しかしながら、総じてFOX版よりもフィクション色が強く、映画はやっぱり人間ドラマでしょ..という人にはこちらをお薦めしたい。
 
また、この種の映画にはどうしても期待してしまう宇宙空間での特撮描写(CG)は"どっちもどっち"といったところか。相変わらず日本映画の限界を感じる部分ではある。
(松竹版は劇場公開時には3D上映だったらしいが、テレビで鑑賞したので効果のほどはよく分からず。)
ただ、どちらの作品も長旅を終えたはやぶさが、オーストラリアの砂漠上空で微粒子が入ったカプセルだけを手放し自身はバラバラに燃え尽きる美味しいシーンはちゃんと用意されている。ここは必見。
 
いずれにせよ、宇宙好きの私が当時情報を追いかけていたはやぶさミッションのことを描いてくれているので、観る前から知っていたこと、知らなかったことなど改めて頭の整理もでき、どちらも楽しく鑑賞させてもらった。
最終的な評価としてどちらとも甲乙つけ難いのだが、あえて言うならFOX版の方が好きかなぁ…。
理由は、はやぶさが行方不明になった時などのトラブル時の現場の様子を松竹版よりも臨場感タップリに描けているような気がしたので。
 
こうなると、もう一つの作品『はやぶさ 遥かなる帰還(2012年 東映)』も観てみないと。
いわゆる渡辺謙版のはやぶさ映画だが、こちらは3作品の中で最も役者達のギャラが高そうな印象なので、否が応でも期待は高まる! まぁ、それはまた別の機会のお楽しみということで。
 
私的評価:
FOX版→★★★★☆
松竹版→★★★☆☆

 

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