映画鑑賞備忘録

突然ですが、最近は映画館に行ける余裕もあまりなく... 主にTVで観た旧作映画の感想など思うがままに書き綴っています...。

21)クイズ・ショウ

クイズ・ショウ (1994年 米)


舞台は、1950年代後半のスプートニク・ショックに揺れるアメリカ。
アメリカ三大ネットワークのひとつ、NBCテレビの人気クイズ番組「21(トゥエンティーワン)」をめぐるやらせスキャンダルを描いた実話の映画化作品である。
 
「21」で目下連勝中のチャンピオン、ハービー・ステンペルは、ユダヤ人かつうだつのあがらない風体でスポンサーから疎まれ、視聴者にも飽きられつつあった。
番組プロデューサーは、そんな状況を打開しようと白人で家柄も申し分なく尚かつ独身二枚目の大学講師、チャールズ・ヴァン・ドーレンに目をつけ、番組に出演させてわざと勝たせようと画策する...。
 
物語は、やらせの罪悪感に苦悩しながらも不正を続けてしまうチャールズと、その不正を暴こうと奔走する立法管理委員会の捜査官、ディック・グッドウィンを軸に展開していく人間ドラマである。
 
現代の日本に生きる身としては、テレビ番組なんて多かれ少なかれこのようなやらせ(演出?)は当たり前のように存在しているんだろうなぁ..と若干冷めた目で鑑賞していたので、特段驚きもなかったのだが、50年代のアメリカでは、いち民放テレビ局の娯楽番組のやらせをこんな大真面目に裁判していたんだという事実が逆に新鮮だった。
エンディングの立法委員会の聴問会(裁判所)の場面で、やらせがバレたプロデューサーが尋問されて発した
 
 “ スポンサーも局も儲り、出演者も夢のような大金を手にし、大衆(視聴者)も大いに楽しんだ。いったい誰が傷ついたんですか? ”
 
というセリフのやり取りがこの作品の本質を物語っている気がした。
 
実はこの映画、やや地味なテーマながらスタッフ、出演者が何気にすごいなと思って見てみたというのが正直なところ。
監督は、俳優としての活動の方が日本では有名なロバート・レッドフォード
ロバート・レッドフォードは監督としてはあまり馴染みがないけれど、『リバー・ランズ・スルー・イット』や『モンタナの風に抱かれて』といった大自然を舞台にした個人的には好きな作品がいくつかある。
監督としてオスカーも取っている(『普通の人々』)のだが、クリント・イーストウッドとは違い、監督業としては寡作なせいであまり"ディレクター"のイメージがないのでは?と推察。
 
お喋り好きでひねくれ者のユダヤ人の前クイズチャンピオン、ハービーを演じるのは、ジョン・タトゥーロ
コーエン兄弟作品に常連の曲者俳優だが、饒舌で理屈っぽい性格のハービー役はぴったりマッチしている。
本作は、カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した『バートン・フィンク』の後に制作された作品になり、実に対照的な演技と感じた。
どちらの作品もジョンがしこたま汗をかかされるのは変わらないけど。
 
良心の呵責に苛まれながらも不正を享受してしまう、チャールズ役はレイフ・ファインズが演じている。
レイフ・ファインズといえば、スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』においての残忍なナチスのSS将校、アーモン・ゲート役を忘れるわけにはいかないだろう。
あるいは最近では、『ハリー・ポッター』シリーズの闇の帝王、ヴォルデモート卿と言った方が通りがいいかも知れない。
今回図らずもレイフ・ファインズの"普通の演技"を初めて見たが、高名な父親に認められたいといった親子間での微妙な感情や、悪いとは思いつつも一方でクイズで有名になりたいといった揺れ動く心の葛藤など上手く表現していていい役だなと思った次第。
 
最後に小ネタをひとつ。
こちらは役者としてよりも監督としての方が圧倒的なネームバリューがある、バリー・レヴィンソンとマーチン・スコセッシの両名が俳優としてカメオ出演している。
レッドフォードに対する友情出演か何かであろうか?
ハリウッド映画ファンとしては思わずニヤリとしてしまった。どんな役で出ているか興味のある方はぜひ一度ご鑑賞を。
 
私的評価:★★★★☆

 

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20)インビクタス/負けざる者たち

インビクタス/負けざる者たち (2009年 米)


舞台は、人種隔離政策(アパルトヘイト)の影響が色濃く残る1994年の南アフリカ共和国
 
ネルソン・マンデラが同国初の黒人大統領に就任するところから物語は始まる。
アパルトヘイトは撤廃されたものの、依然として人種的に分断され貧困にあえぐ南アフリカが、1995年に同国で開催されたラグビーのワールドカップを通じて、国全体が盛り上がりを見せ、国民が徐々に一体感を醸成していく過程が描かれる実話である。
 
ラグビーは当時の南アでは白人裕福層のためだけのスポーツであり、ある種アパルトヘイトの象徴でもあった。
マンデラは強力なリーダーシップと"赦し"の精神を持って、そのラグビー代表チームにあえて目をかけ、民族の融和を図ろうと奔走する。
なるほど。新体制となった南アフリカはこうして再生したのか...ということがスポーツ映画という一級のエンターテイメントの力を借りてよく理解できる。
 
1995年のラグビーW杯と言えば、日本人目線だと、ニュージーランドオールブラックスに日本代表が100点差以上という1試合の最多得失点差記録を作られ惨敗した... という負のイメージしかなかったが、(本作の中でも1シーンで言及あり)地元ではこんなドラマが展開されていたのですね。恥ずかしながらこの映画を見て初めて知った次第。
 
弱小チームが不屈の精神を持って強い相手に打ち勝っていく... フィクションならば使い古されたモチーフだが、実話であるが故に妙に説得力があり陳腐さは感じられない。
南アフリカアパルトヘイトを背景としているものの、政治的なメッセージだけの一面的な内容とせずに、うまくラグビーのW杯をからめ、映画的カタルシスを味わうことができる魅力的な脚本として仕立てられていて非常に興味深い作品である。
 
監督は大御所、クリント・イーストウッド。彼の監督作品は古くは『ファイヤーフォックス』あたりから、最近では『アメリカン・スナイパー』まで、結構観てきているが(もちろん未見の作品も多数あり)、イーストウッド映画では私的ベスト1にランクインするくらい、好きだなこの映画。
 
主役のネルソン・マンデラを演じるのは、名優、モーガン・フリーマンマンデラ本人からもお墨付きをもらったというエピソードもあるように、もうこの人しかいないと思わせる程のハマリ役。
マンデラの常に笑顔を絶やさない優しい表情と、信念を持った強い眼差しを巧みに演じ分けていて、その熱演ぶりは次第にマンデラ本人では?と思えてくる程のレベル。
 
最後に、覚え辛く変わったタイトルだと思ったので、見終わった後に調べてみたところ、インビクタスとは、ラテン語で「屈服しない」とか「征服されない」といった意味だそうだ。
物語の中では、投獄されていた時代からマンデラ座右の銘とする言葉が載る詩の題名として登場するのだが、この映画では盛んにその詩の一節が繰り返され、全編に渡り「インビクタス」がキーワードとなっている。
 
それは、南アラグビー代表チームとしてのインビクタスであると同時に、様々な反発や苦境に置かれても決して屈しないマンデラの矜持としてのインビクタスでもある。
 
私的評価:★★★★★ 

 

インビクタス / 負けざる者たち [DVD]

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19)エクスペンダブルズ2

エクスペンダブルズ2 (2012年 米)

 
シルベスター・スタローンがその人脈でかき集めた往年のアクション俳優陣によるアンサンブル映画の第二弾。
 
主に80年代以降に活躍してきたマッチョマン達が、銃弾の雨あられを降らせ、殴り合いやナイフを使った格闘などの肉弾戦をこれでもかと繰り広げる軍事アクション映画である。
シリーズの1作目も観ているが、飛び交う銃弾の数も、死ぬ人間の数も半端ではない。もちろんその筋肉量も1作目に比べて数段レベルアップしている!?
 
前作から続投のシュワちゃんブルース・ウィリス、さらにはジェイソン・ステイサムドルフ・ラングレンジェット・リーなどおなじみの面々に加え、今回の敵役はジャン=クロード・ヴァンダムという念の入れようである。これは期待せずにはいられない。
このメンツだけでもお腹いっぱいなのに、今作にはなんと伝説の男チャック・ノリスまでご登場である。70年代〜80年代のハリウッドアクション映画で育ったワタシのようなおじさんはもう狂喜乱舞する他ない。
 
これらの豪華俳優ありきの強引な配役やトンデモ展開が若干気にはなるものの、この映画にリアリティだの、人間ドラマだのを求めるのは野暮というもの。
ストーリーは二の次、とにかく観客を楽しませることに徹底的に拘った爽快なまでの突き抜けっぷりに拍手を送りたい。
観客と言っても、チャック・ノリス?誰このジジイ?と思っているような若い人や女性は見向きもしないだろう。
ターゲットはワタシと同年代以上のおっさんに限られる極めて男臭い、おっさん達によるおっさん達のための映画に仕上がっている。
 
並み居るおっさん消耗品(=エクスペンダブルズ)仲間において、途中で殺されてしまう新メンバーのビリーを除けば一番若い(?)であろうジェイソン・ステイサムのケンカ闘法やセリフ回しなどはとにかくカッコイイ。
先日鑑賞したワイルド・スピードスカイミッションでも清々しいほど憎たらしい凄腕の悪役を演じていたが、ジェイソンは今ハリウッドで最もクールでセクシーなハゲ..否スキンヘッド俳優だと思う。(褒め言葉)
 
世界的に評判がいいのか本作はシリーズ化され、3作目も昨年封切られていたが(そちらは未見)、4作目もスタローンはやってくれそうだ。
これらスターの競演を誰もが一度は夢見るも企画倒れに終わりそうな、そんな映画シリーズを現実のものとして私達に提供してくれるスタローンには素直に敬意を表したい。
もうすでに還暦を過ぎて結構たっているはずだが、彼の映画への情熱は、スクリーンの中の役柄同様に今もなお衰え知らずのようだ。
この際、余計なことは考えずに頭を空っぽにして鑑賞したい。マッチョジジイ万歳。
 
私的評価:★★★★☆ 
 

18)戦場のピアニスト

戦場のピアニスト (2002年 仏・独・波・英合作)

 
ようやく観る機会を得た。
 
当備忘録の最初の方でたまたま立て続けに鑑賞した『プレデターズ』『ヴィレッジ』に出演していたエイドリアン・ブロディが、米オスカーの主演男優賞を受賞し、カンヌではパルムドール、英国ではアカデミー作品賞など各国の映画賞を総なめにした作品。
エイドリアン・ブロディは、実在のユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンを演じている。
 
舞台は第二次世界大戦が勃発しナチスドイツの侵攻にさらされたポーランドの都市、ワルシャワ
ワルシャワ在住のユダヤ人が次々とナチスドイツのホロコーストの犠牲となっていく様をシュピルマンの視点で捉え続けた戦争映画である。
全体的な印象としては、この手の映画特有のドンパチ表現や映画的なドラマチックな展開はかなり控えめで、実に淡々とした映像に仕上がっている。
淡々としているが故のリアリティがあり、直接訴えかけてくるような怖さがある。
 
監督のロマン・ポランスキーは、実際にユダヤ系のポーランド人であり、第二次大戦期にユダヤ人ゲットーに押し込められ、ドイツ軍に苦しめれた経験を持っているそうで、序盤から、これでもかと言わんばかりのドイツ軍の蛮行描写を見せつけられる。
特別な理由などなく、ただユダヤ人だからというだけで躊躇なく引き金をひくドイツ兵...。
車椅子ごと高層アパートのベランダから放り落とされるユダヤ老人...。
街中のそこかしこに転がる死体をまたいで往来するゲットーの日常...。
そこには、平和ボケの現代に生きる私たちにとって、まさに想像を絶する極限の光景が広がっていた。
 
友人たちの機転や仲間たちの協力により、強制収容所送りは免れ、さらには隠れ家を転々としながら命を繋いでいくシュピルマン
ワルシャワ・ゲットーを脱出した中盤以降は、逃げる、隠れる、また逃げる、のさながら"サバイバル映画"の様相となっている。
シュピルマンが生き残れた奇跡は、こういった周りの人たちの好意の積み重ねがあったことも忘れてはならないだろう。
 
そして、戦争も終盤に差しかかかった1944年、ドイツに対する反抗勢力らによるワルシャワ蜂起が勃発するも結果的には失敗に終わり、ドイツ軍は報復としてワルシャワ市街の徹底的な破壊工作に打って出る。
ドイツ軍の病院に一時的に隠れていたシュピルマンが命からがら市街地へと逃げ出して行くシーン。足下がフラフラのシュピルマンをカメラが遠目から引きの画でとらえていき、廃墟となってしまったワルシャワ市街の全容が現れる場面に絶句・・・。
廃墟と呼ぶのが生易しいくらいに破壊し尽くされた街並み。次の瞬間、これどうやって撮影したんだろう?という疑問が頭をよぎる。オープンセットなのか?それともCG合成なのか?いずれにせよ、この映画を象徴する場面のひとつになっている。(下記リンク先のDVDパッケージご参照)
 
この作品の原題「The Pianist」のタイトルから想像するにピアノ演奏の場面が結構あるのかと思いきや、意外にもピアノシーンは少ない… 否、逆に少ないからこそかえってピアノ演奏のシーンがより鮮烈に引き立つ効果があると感じる演出。
その象徴ともいえるのが、物語のラスト、隠遁していた廃屋でドイツ軍将校に見つかり、命じられるがままに演奏した場面である。
最初こそ恐怖や逃亡生活の疲れからか、たどたどしい旋律で始まるものの、徐々に抑圧されていた気持ちが開放していき、終盤にかけてショパンを見事に演奏してみせ、静かに見守っていたドイツ将校を唸らせる。
シュピルマンはピアニストだからこそ命を繋ぐことができた。ピアノが生きる希望、また生かされる意味だったのだ。
 
エイドリアン・ブロディは、配役毎に全然印象が異なる演じ分けっぷりに、以前「いい役者」と言及したが、この彼の代表作でも、どんどんやつれ、耐え忍ぶ悲劇の主人公にぴったりハマったイメージであり全く違和感はない。
実際のシュピルマンさんとはあまり似ていないとの意見もあるようだが、彼の熱演なくしてこの映画の成功はなかったと思われる。
 
シュピルマンさんは21世紀が始まる直前までご存命だったので、映画のストーリー的にはもちろんハッピーエンドなんだろうけど、重い、とてつもなく重く、そして考えさせられる映画だった。
 
私的評価:★★★★★ 

 

戦場のピアニスト [DVD]

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17)あなたへ

あなたへ (2012年 日本)


映画鑑賞備忘録2作続けての日本映画。
今回は結果として高倉健大滝秀治の遺作になってしまった祈念碑的作品。
朋友、降旗康男監督とのゴールデンコンビは本作で何本目なのだろう? 健さんは晩年はほとんど降旗監督としか仕事をしていなかったようだが、何か特別な理由でもあるのだろうか…?

富山刑務所の刑務官である健さんが、先立たれた妻(田中裕子)の「故郷の海に散骨して欲しい」という遺言に従って、妻の生まれ故郷である長崎県平戸の漁港目指し、自らキャンピング仕様に改造したエルグランドで旅に出るという内容。

旅の途中で出会う人達との心温まる交流や日本の美しい原風景など、いかにも日本映画らしい旅と人情が満載のほんわかした気分になれるロードムービーに仕上がっている。

何と言っても、これは高倉健ありきの健さん映画である。
80歳を過ぎてもなおそこに佇んでいるだけで、この存在感はさすがという他ない。
降旗監督のちょっと乾いたような空気感を醸し出す映像美も相変わらず素晴らしい。
先日たまたま仕事で富山県に行ったばかりだったので、そうそう富山ってこんな空気感だった! と思わず膝を叩いてしまったほどだ。

ただ、良くも悪くも"健さん映画"の域を脱してなく、物語としてはちょっと分かりにくいのが気になった。
妻は遺言で結局何を言いたかったのか?
とうとう最後までよく分からずに終わってしまった感じだ。
もちろん健さんは終盤で自分なりの答えを出す。ただし見てる方には、妻の遺言に込められた想いや二人の間の心情が今ひとつ伝わってこない。
私があまりこういう映画に見慣れていないせいもあり鈍いのかもしれないが...。
それは、観客それぞれが感じたことが答えなのだと問い掛けられているようでもある。

でも、どうしても健さんのロードムービーと言えば、真っ先に思い出す傑作「幸福の黄色いハンカチ」と比べてしまう自分がいる。
少なくともあちらの方がラストは数倍泣けた。

とは言え、俳優:高倉健への惜別としての時間が共有できる良作であるのは確かだ。
そこでは実にゆったりとした時が流れていて、しばし日常を忘れて癒される時間となった。
 
私的評価:★★★☆☆

 

あなたへ DVD(2枚組)

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16)ゼロの焦点

ゼロの焦点 (2009年 日本)

 

松本清張原作の映画化作品。とても著名なお話なので、これまで何度も映像化されているみたいだが、劇場用の映画作品としては本作でニ度目だそうだ。(一回目は1961年制作の松竹映画)

 

主演は広末涼子
まだ戦後の影響が色濃く残る昭和30年代初頭の北陸金沢を舞台に、夫の失踪をきっかけに起こるいくつかの殺人事件の真相に迫るミステリーだ。
 
私は今まで原作も読んだことがなく、映像化作品もどれも観たことがなかったので、前提知識ほぼゼロで今回鑑賞した。
前半のうちはなかなかどうして、えっ?誰が犯人??ってな感じで、ハラハラドキドキ感が強くかなり引き込まれた。
 
しかしながら、中盤以降でだいたい犯人の察しがついてくると、一気にミステリー色は薄くなり、やや唐突な展開やストーリーの無理矢理さで中だるみしてくる。
さらにラストに至っては、「えーっ!、どうして○○さん自殺しちゃうの?」という違和感しか残らない衝撃の展開が・・・。
原作はきっとこんなラストじゃないんだろうな... 読んだことないのでホントのところは分からんけど。
 
犯人が殺人に至る経緯が、戦後の傷跡が大きく影響しているというお話なので、悲しいかな、21世紀の現代ではそのリアルさを醸し出すのはかなり難しい作業だったのは想像できる。
が、ちょっと人間関係、とりわけ各登場人物の感情表現の部分を軽視しすぎな脚本に感じた。まぁ2時間という限られた尺の中では致し方ないのかもしれないけど。
 
一方、画面細部の背景描写、昭和30年代の鉄道(当然蒸気機関車です!)、駅や街並み、衣装、小物に至るまでの再現性は見事だ。どうやって撮影したんだろう?と唸らせるレベルにあったと思う。
 

さらに、広末涼子を始めとする主要メンバーの三女優はどなたもそれなりにいい演技をしていたと思う。

特に失踪した広末の夫(西島秀俊)と懇意にしていた社長夫人を演じていた中谷美紀の鬼気迫る怪演は素晴らしかった。
もともと中谷の演技力には一目置いていたけど、この作品も全く期待を裏切らない。個人的に好きな女優さんのひとり。
 
また、薄幸な女性を演じさせたら右に出る者はいないと評判の木村多江
苦労の末の"安住の地"のはずだった男性に裏切られ、信じていた旧友にも貶められ、そして断崖絶壁から・・・というとんでもなく不幸な役柄はまさに彼女の真骨頂である。
 
そして、広末もその丸顔とアニメ声が、結婚してすぐに夫に失踪された新妻役として何となくしっくりこない印象も捨てきれなかったけど、"事件"を通じて強く成長していく女性を健気に、時に力強く演じていた。かなり頑張っていたと思う。
 
ただただ違和感が拭えない後半の展開が残念。
こうなるとやっぱり原作が読みたくなってしまう。原作を読んでからもう一回改めて鑑賞するとまた違った見方ができるかもしれない。
 
それにしても本作のタイトルはなぜ「ゼロの焦点」なのだろう?最後まで見ても意味が分からなかった。
松本清張の作品はタイトルの付け方にひと癖あるというか、私にとっては非常に難解です。
 
私的評価:★★☆☆☆

 

ゼロの焦点(2枚組) [DVD]

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15)マイ・ルーム

マイ・ルーム (1996年 米)

 

ダイアン・キートンメリル・ストリープレオナルド・ディカプリオ、そしてロバート・デニーロという錚々たるメンバーが競演している話題作。

 

数々の映画賞に常連の何とも贅沢な俳優陣だが、ストーリー自体はアメリカ映画に結構ありがちな内容で、テンポも実に淡々としており、正直地味な印象。

  

確執があり長年音信不通だった姉妹が、姉の白血病をきっかけに再会して「家族」を取り戻していく過程が描かれる。

こう書くとお涙ちょうだいの感動大作なのかと思うかもしれないが、意外と泣ける場面は少ない。

 

親の介護問題や息子の非行、そして白血病がテーマになっているので、雰囲気としては全編に渡り重め。但しそのような要素も時にコミカルに、時にハートフルに、いい意味で非常に丁寧に演出されている。演技派俳優たちのさりげないセリフのキャッチボールもさすがだ。

 

特に姉役を演じるダイアン・キートンの笑顔が素晴らしい。

 

父親や叔母の面倒をみるためにずっと独身を貫いてきた挙句に白血病を患い、さらには家族の誰にも骨髄移植の適合者がいない事実が分かってからも、「でも私は愛してる人がそばにいるから幸せよ」とのたまう。

ともすれば、なぜそのような崇高な境地に至れるのか? と訝しい見方もできるのだが、キートンのキュートで優しい笑顔が、そんな観客の斜め目線はただの邪推だと気付かせてくれる。

 

妹:ストリープは姉に負い目がある設定上、終始顔色が悪くあまり笑わないのだが、姉:キートンは家族旅行で出掛けたディズニーランドで吐血してもなお、本当に幸せそうだ。

この対照的な姉妹を演じる二人の演技バトルも本作の見どころのひとつと言えよう。

 

私的評価:★★☆☆☆ 

 

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