29)Ray/レイ
Ray/レイ (2004年 米)
言わずと知れた盲目の天才ミュージシャン ”キング・オブ・ソウル”こと、レイ・チャールズの伝記映画である。
レイ・チャールズに関しては、いくつかのヒット曲は知ってはいるが、さほど熱心に聴いたことはないし、何を隠そう彼の音楽に初めて触れたのは、ラジオやレコードではなく映画の中だった。
私と同年代くらいの人たちの中では、この映画でレイ・チャールズを認識した人、意外と多いんじゃないか?と推察する。
いずれにしても、鑑賞前のレイの知識としてはそんな程度だった。
物語は、レイが17歳の時に南部の故郷を離れ、音楽で一旗揚げようとシアトルにたった一人移住するところから始まり、人種差別、盲目という二重のハンデキャップを背負いながらも成功への階段を駆け上がっていく姿が描かれる。
それらハンデキャップに加えて、幼い頃に自らの不注意から弟を事故死させてしまうというトラウマにより、以降苦悩し続けることになるのだが...。
伝説的ミュージシャンの若き日のエピソードが淡々と繰り広げられていくが、「サクセス・ストーリー」として簡単に片付けられない波瀾万丈の人生が垣間見える。
例えば、自身の苦悩から逃れるために、ある程度成功し家族を持ってからもなお、女性、そして麻薬に溺れていくレイの人生の負の部分もきちんと描かれている。
152分という非常に尺の長い映画だが、不思議とダレることなく鑑賞できる。
伝記映画と言うと、ストーリーが冗長になったりで途中で飽きてしまうことも多々あるが、幼少期の母との思い出がフラッシュバック的に挿入されたり、そして何より、ライブ会場やスタジオでのパフォーマンスとして、その時代時代のレイの代表曲が披露されるので、この手の音楽好きには時間がたつのを忘れるくらい楽しめる。
尚、この母との回想シークエンスは、よく晴れた屋外でのシーンが多用され、心なしか現在の場面よりも明るく美しい映像に仕上がっている。
過去の回想シーンとなると普通なら色調を落として表現したくなりそうなものだが、レイがまだ視力を失う前の"視界"という意味も込められているのか、あえて現在のシーンよりも明るいトーンにして対比させているように感じた。
これは、ラストでレイが麻薬やハンデを克服する際に見える幻覚への伏線にもなっていて興味深い演出である。
本作の多くのレビューにある通り、レイ役に抜擢されたジェイミー・フォックスの"憑依"演技につきる映画でもある。
レイ・チャールズの若い頃とジェイミー・フォックスは、よく見比べてみると素の顔自体はそんなに似てないと思うのだが、ジェイミーがピアノの前に座り、あの肩を強張らせる独特の奏法で曲を弾き始めると、レイ・チャールズそのものに豹変する演技力は素晴らしいのひと言。
元々ミュージシャンであるが故に、ピアノの演奏もボディダブルなど使わずジェイミー自身が全て演じているそうだが、これが作品のリアリティーに寄与しているのは間違いない。
2004年、この作品の完成を待つことなくレイ・チャールズは他界してしまう。
まだ映画の余韻が残っているうちに、レイの苦悩や葛藤、そして人生の全てが込められた珠玉の名曲たちを改めて味わいたくなった。
私的評価:★★★★★
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