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映画鑑賞備忘録

突然ですが、最近は映画館に行ける余裕もあまりなく... 主にTVで観た旧作映画の感想など思うがままに書き綴っています...。

27)グラン・トリノ

cinema

 

グラン・トリノ (2008年 米)

クリント・イーストウッド監督・主演作。

 

ちょっと前に同じイーストウッド監督の『インビクタス(20 インビクタス/負けざる者たち - 映画鑑賞備忘録)』を観ていて、あれも実際観てみるまでタイトルの意味がさっぱり分からない映画だったが、今回も当初タイトルの意味がよく分からなかった。
グラン・トリノ?イタリアの街が舞台の映画?程度の知識で見始めたのだが。
 
グラン・トリノ」とは70年代に製造されたフォード車の名称だそうだ。主人公のウォルト(クリント・イーストウッド)の愛車である。
全編を通してウォルトがこの愛車に乗るシーンはないのだが、自宅ガレージで頻繁にメンテナンスしており、非常に大切にしていることが伺える。
 
ウォルトは朝鮮戦争に従軍している元軍人で、兵役後はフォードの工場で長年勤め上げた自動車工でもあり、かつては祖国のために命を賭して戦い、戦場では何人もの敵兵をその手にかけた苦い経験を持つ。
 
妻にも先立たれた頑固な偏屈老人は、いよいよ人生の終盤に差し掛かり、自分のお思い通りにならない親族や周囲の冷たい目線、あるいは世代間ギャップとも言える時代の変遷に苛立ちを隠せない。
昼間から自宅の玄関ポーチで缶ビールを何本もあおり、離れて暮らす自身の息子家族や、移民が増えて治安が悪化していくわが街の姿に日々悪態をつきながら孤立していくウォルト。
 
そんな中、隣家の東南アジア系移民の少年タオが、同じモン族の不良たちにそそのかされ、ウォルトのグラン・トリノを盗もうとしているのを発見する。
物語はこの事件を契機に、モン族一家のその飾らない温かみに触れ、次第にタオやその姉スーと心を通わしていく様子が描かれる。
特にタオに対してはまるで父親のように接し、建築関係の仕事の世話や、この街で男として生きていくためのノウハウ、工具の使い方などを徹底的に教え込む。そう、実の息子では叶えられなかった自身の生き様をタオに刻みつけるように。
 
そんな平和な時間も束の間、タオたちを快く思わない同郷のギャングたちが執拗にタオやその家族にちょっかいを出してくるという雲行き怪しい展開に... ついには、いさかいにケリをつけるため単身モン族ギャングのアジトに向かったウォルトだったが・・・。
 
かつてイーストウッドが演じてきた、ダーティハリーマカロニ・ウェスタンのヒーローのどれとも違うカッコよさ。
そこには単なる自己犠牲のヒロイズムとしては片付けられない深い想いが垣間見える。
 
この映画をもって、演者としては一旦身を引く覚悟を決めたクリント・イーストウッド。まさにこのシーンに自身の役者人生の集大成を投影しようとしたのかもしれない。ウォルトの最後の決断に、イーストウッドが今まで演じてきた数々のキャラクターが交錯して見えた。
 
余談だが、イーストウッドはこの映画で役者として引退表明したものの、その後2012年に『人生の特等席』という作品で、年老いたメジャーリーグスカウトマンという役を好演している。この映画も観たが、なかなか味わい深い演技で、自分はウォルト・コワルスキー役よりもこちらの方が好きかもしれない。
 
タイトルの『グラン・トリノ』は、実は直接的にはストーリーにあまり絡んでこないが、人(登場人物)との繋がりを語るうえで欠かせないアイテムとして登場する。なるほど、このパターンはイーストウッド作品では名作『ミスティック・リバー』に雰囲気は似てるかもしれない。
 
ただし、衝撃的なラストこそあまり変わりばえしないものの、不思議と『ミスティック・リバー』や『ミリオンダラー・ベイビー』ほど本作は後味が悪くない。
ネタバレになるが、この映画は、ウォルトの遺言により譲り受けたグラン・トリノに乗り、風光明媚な海岸線を流すタオの、どこかはにかんだ笑顔で終幕する。
このラストシーンがあるおかげで観客は救われる。ウォルトの生きた証が脈々と受け継がれていることを示唆させる心憎い終わり方だ。
 
私的評価:★★★★☆

 

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