映画鑑賞備忘録

突然ですが、最近は映画館に行ける余裕もあまりなく... 主にTVで観た旧作映画の感想など思うがままに書き綴っています...。

24)ミスト

ミスト (2007年 米)

 
原作:スティーブン・キング、監督:フランク・ダラボンによるホラー、というよりもジャンル的にはモンスターパニック映画になるだろうか。
 
キング+ダラボンといえば、あの『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』という傑作を生み出している名コンビな訳だが、さらにこの作品には「後味の悪い胸糞映画」だとか「衝撃的過ぎる結末の映画」といった称号が付けられていると聞く。これは否が応でも鑑賞前の期待は高まるというもの。
 
山あいの田舎町を覆いつくした濃霧の中にいる"何か"に恐怖し、町外れのスーパーマーケットという閉塞的な環境の中で常軌を逸していく住民たち。
果たして霧の中には何がいるのか? 残された人々の運命はいかに!? 
 
出演者にメジャーな俳優が見当たらないとか、意外にも始まってすぐにその姿を表すクリチャーのありきたりな造形…等、ジェームズ・キャメロンの処女作『フライングキラー』を思い起こさせる、そこはかとないB級映画感が漂う前半の展開。
 
正直見たことを後悔し始めたのだが、中盤以降で、「神の預言者」を名乗るおばさんを中心に狂信的な人々が結束し始めた頃から様相が一変、目が離せなくなってしまった。
そして終盤にかけて、この作品がただのモンスターパニック映画ではないことに気づかされる。
怖い。しかも本当に怖いのは霧の中の怪物ではない。そこにいる人間自身と言いたいのか。
 
ショーシャンクの空に』とは全く対極的なバッドエンド。
これはかなり好き嫌いが分かれる結末であろう。特に日本人には理解しがたいだろうね、私を含めて。
ラストの解釈はさておき、ホラーやパニック映画が生理的に受け付けない人を除いて、一度は観てみてもいいんじゃないでしょうか、この映画。人間の本質みたいなものをやや斜め方向の角度から考えさせられる。
 
前述の通り、中盤までは何となく既視感のある展開でダルい感じがするものの、そこを我慢してとにかく最後まで観てみることをお薦めします。
 
私的評価:★★★☆☆

 

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23)ダークナイト ライジング

ダークナイト ライジング (2012年 米)

 
いわゆるクリストファー・ノーラン監督版の『バットマン』シリーズ三作目にして完結編である。
 
まず初めに告白したい。2作目の『ダークナイト』を最初に観た時、なんでこんなに世間の評判がいいのか?正直よく分からなかった。
(『ダークナイト』は映画ファンの間で非常に評価が高い作品として有名)
ダークナイト(バットマン)とホワイトナイト(ハービー・デント)の対比、自らの正義感や強さが作り出してしまう絶対悪という自己矛盾への葛藤など、複雑なテーマ性は垣間見えたものの、映画をあくまでエンターテイメントとして捉えたい私にとっては今ひとつ楽しめず、宿敵ジョーカー役の今は亡きヒース・レジャーの怪演しか印象に残らなかった。
 
という訳で、私的には消化不良気味に終わった、前作『ダークナイト』を受けての本作であり、あまり大きな期待を持たずに今回鑑賞したのだが・・・
 
ノーラン版バットマン=ダークナイトシリーズに共通して言えることだが、今作も一見するとどこか哲学的で難解なイメージを受ける。初見では、なかなかストーリーについて行けないというのが率直な第一印象だった。
 
案の定、一度観ただけでは何だかよく分からず、観終わった後に頭の中に「?」しか残らなかったので、時間を空けずにもう一度最初から見直してみたところ、「ん?ひょっとして...」
でもまだしっくりこず、
三度目を今度は途中から鑑賞して…「おー、そういうことか!」
前作から続いていたモヤモヤが一気に晴れていく感覚。三度見してようやく納得のラスト。意味が分かると、何のことはないスッキリする結末である。
なるほど。このシリーズはあくまで三部作全体でひとつの物語であり、2作目『ダークナイト』の終了時点で"消化不良"に感じたのもある意味当然だったという訳か。
 
故に、本作を観るにあたっては『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』は必ず復習してから鑑賞することを強くお薦めしたい。
でないと、本作の面白味が半減してしまうこと請け合いである。
 
ノーラン版バットマンはアメコミヒーローを題材にしつつも、全く子供には向いておらず、大人による大人のための作品だと思う。
事実、スパイダーマンは喜んで見るウチの小学生の息子も本シリーズには全く興味を示さなかった。
さらに、昨今多くの映画で目にする重力を無視したようなワイヤーアクションとは一線を画す、重くリアリティのあるアクションシーンなども、派手さはないが、ある意味大人向けの演出と言えよう。
 
ただし、そのようなリアルさを追求する方針にしてしまった代償で、逆に脚本のアラが見えてしまうところもあり、そこが前作『ダークナイト』ほどの評価をもらえていない要因かもしれない。
人間とはわがままなもので、アメコミヒーロー映画であったら許せた場面も、リアリティのある人間ドラマだと許せなくなったりする。
 
今作においても、主役のバットマン=ブルース・ウェインを演じるのはイギリス人俳優のクリスチャン・ベール。決して超人ではない、あくまで普通の人間であるブルースの「挫折」や「葛藤」、その先の「復活」そして「伝説へ・・・」までを違和感なく演じ切っている。正しく集大成として"演じ切った"と表現するのがふさわしい熱演ぶり。
共演陣もシリーズを通してのお馴染みの面々が顔をそろえる。
市警本部長にまで出世したゴードン役のゲイリー・オールドマンの八面六臂の大活躍。
また、ウェイン社重役、フォックス役のモーガン・フリーマンの常に冷静で抑えた演技も渋くてカッコいい。
さらに、今作で初登場のアン・ハサウェイ演じるセリーナ・カイル(キャットウーマン)も、歴代バットマンシリーズのヒロイン史上最もセクシーでキュートな存在感をもって好印象。(はい。アン・ハサウェイ、単なる個人的な好みです)
 
そんな共演陣の中でも最も印象に残るのは、ブルース家の執事・アルフレッド役のマイケル・ケインだ。
過去二作においても、事あるたびに含蓄のあるお言葉を発して泣かせてくれるアルフレッドだったが、今作においてもこの人のセリフが妙に頭に残り、そして胸を刺す。
若干ネタバレになるが、ラストシーンのアルフレッドの自然な表情といったら! セリフが全くないシーンにも関わらず涙腺を刺激する演技に完全にやられてしまった。
そして、これでやっぱり続編はもうないんだな..と確信できる終わり方が素晴らしい。
 
この映画の結末は、私にとって、これまで観た映画の中でも指折りのラストシーンとなったことを申し添えておきたい。
 
私的評価:★★★★★ 

 

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22)はやぶさ映画2本

はやぶさ/HAYABUSA (2011年 日本:20世紀FOX
おかえり、はやぶさ (2012年 日本:松竹)

 
今回は、2010年に無事地球に帰還して一大センセーションを巻き起こした小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトの映画化作品を、たまたま2本立て続けに観たので、まとめて感想を書き留めたいと思う。
 
はやぶさ映画は、2011年から2012年にかけて各配給会社より相次いで3本制作されたと記憶している。
今回鑑賞したのは、このうち最初に公開された『はやぶさ/HAYABUSA(以下、FOX版)』と最後発の『おかえり、はやぶさ(以下、松竹版)』である。
 
2作品とも同じテーマを下敷きにしているので、はやぶさの2003年の打ち上げから小惑星イトカワへのタッチダウン、そこから地球に微粒子サンプルを持ち帰ってくる紆余曲折まで、大まかなストーリーの流れはどちらも似通っている。というか全く同じと言っていい。
さらに、どちらの映画も宇宙航空研究開発機構(JAXA)の職員である若き架空のキャラクター(FOX版は竹内結子、松竹版は藤原竜也と杏)の目を通じて、プロジェクトの一連のエピソードを描いているところまでもほぼ一緒と言って差し支えないだろう。もちろんそれぞれのキャラクターの立ち位置、背景などに若干の差異はあるが。
 
他方、はやぶさミッションに対するアプローチの手法においてそれぞれの考え方に大きな違いがあるようだ。
 
FOX版の方は、打ち上げ前の計画の段階から、打ち上げ ~ 運用に至るまでのエピソードを淡々と時系列に追いかけていき、よりリアルさを追求している。それはまるでプロジェクトX的なドキュメンタリーを見ているようでもある。
ただ事実を淡々と紹介しているだけだと映画としての面白味がなくなるのを嫌ってか、探査機はやぶさをキャラ化(擬人化)し、はやぶさ自身の目線で観客に訴えることにより、ストーリーに程よい起伏を与えていると感じた。
(このはやぶさのキャラ化という手法は、JAXAにおける活動を広報するために作られたパンフレット『はやぶさ君の冒険日誌』として実際に綴らたもの)
 
また、竹内結子演じる新米研究員のほか、対外調整/広報担当教授役の西田敏行はやぶさのプロジェクト責任者である川口淳一郎博士役を演じた佐野史郎など、非常にバランスがいい配役で、見ていて違和感なく映画に没頭できた点も評価していいと思う。
 
一方でリアルさを求めたゆえの代償と言えるかもしれないが、プロジェクトの進行以外の人間ドラマの部分については"やや弱い"と思って観た方がいい。
竹内結子が宇宙を目指すきっかけを与えた「亡き兄への想い」以外は特に感情に訴える描写もなく、そういうものを期待する向きにはあまり面白くない映画になっている。良くも悪くもドキュメンタリータッチなのである。
 
松竹版の方は「失敗からの前進」がテーマの根底にあり、そもそもはやぶさの成功要因のひとつには火星探査機「のぞみ」の失敗があった..という構成になっているのがFOX版との大きな違いであろう。
一連のはやぶさの運用に絡め、のぞみプロジェクトで失敗した父(三浦友和)に対する、はやぶさ技術者の息子(藤原竜也)の反発 ⇒ 葛藤 ⇒ 相互理解といった人間ドマラが描かれる。
 
こちらはFOX版ほどJAXA相模原キャンパスや臼田観測所でのやり取りにはリアルな印象を受けないのだが、小学生向けの宇宙授業のシーンなどで子供を使い、専門的な部分を分かりやすく説明しようとしているくだりは非常に好感が持てた。
 
また、上記父子のエピソードのほかにも、JAXA研究員(ココリコ田中)の家族の病気などをはやぶさの帰還と同期させながら映画を盛り上げようとしているのだが、ここの物語部分はちょっとツメが甘く中途半端な描写になっており、いまいち感情移入できなかったというのが正直なところ。
しかしながら、総じてFOX版よりもフィクション色が強く、映画はやっぱり人間ドラマでしょ..という人にはこちらをお薦めしたい。
 
また、この種の映画にはどうしても期待してしまう宇宙空間での特撮描写(CG)は"どっちもどっち"といったところか。相変わらず日本映画の限界を感じる部分ではある。
(松竹版は劇場公開時には3D上映だったらしいが、テレビで鑑賞したので効果のほどはよく分からず。)
ただ、どちらの作品も長旅を終えたはやぶさが、オーストラリアの砂漠上空で微粒子が入ったカプセルだけを手放し自身はバラバラに燃え尽きる美味しいシーンはちゃんと用意されている。ここは必見。
 
いずれにせよ、宇宙好きの私が当時情報を追いかけていたはやぶさミッションのことを描いてくれているので、観る前から知っていたこと、知らなかったことなど改めて頭の整理もでき、どちらも楽しく鑑賞させてもらった。
最終的な評価としてどちらとも甲乙つけ難いのだが、あえて言うならFOX版の方が好きかなぁ…。
理由は、はやぶさが行方不明になった時などのトラブル時の現場の様子を松竹版よりも臨場感タップリに描けているような気がしたので。
 
こうなると、もう一つの作品『はやぶさ 遥かなる帰還(2012年 東映)』も観てみないと。
いわゆる渡辺謙版のはやぶさ映画だが、こちらは3作品の中で最も役者達のギャラが高そうな印象なので、否が応でも期待は高まる! まぁ、それはまた別の機会のお楽しみということで。
 
私的評価:
FOX版→★★★★☆
松竹版→★★★☆☆

 

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おかえり、はやぶさ [DVD]

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21)クイズ・ショウ

クイズ・ショウ (1994年 米)


舞台は、1950年代後半のスプートニク・ショックに揺れるアメリカ。
アメリカ三大ネットワークのひとつ、NBCテレビの人気クイズ番組「21(トゥエンティーワン)」をめぐるやらせスキャンダルを描いた実話の映画化作品である。
 
「21」で目下連勝中のチャンピオン、ハービー・ステンペルは、ユダヤ人かつうだつのあがらない風体でスポンサーから疎まれ、視聴者にも飽きられつつあった。
番組プロデューサーは、そんな状況を打開しようと白人で家柄も申し分なく尚かつ独身二枚目の大学講師、チャールズ・ヴァン・ドーレンに目をつけ、番組に出演させてわざと勝たせようと画策する...。
 
物語は、やらせの罪悪感に苦悩しながらも不正を続けてしまうチャールズと、その不正を暴こうと奔走する立法管理委員会の捜査官、ディック・グッドウィンを軸に展開していく人間ドラマである。
 
現代の日本に生きる身としては、テレビ番組なんて多かれ少なかれこのようなやらせ(演出?)は当たり前のように存在しているんだろうなぁ..と若干冷めた目で鑑賞していたので、特段驚きもなかったのだが、50年代のアメリカでは、いち民放テレビ局の娯楽番組のやらせをこんな大真面目に裁判していたんだという事実が逆に新鮮だった。
エンディングの立法委員会の聴問会(裁判所)の場面で、やらせがバレたプロデューサーが尋問されて発した
 
 “ スポンサーも局も儲り、出演者も夢のような大金を手にし、大衆(視聴者)も大いに楽しんだ。いったい誰が傷ついたんですか? ”
 
というセリフのやり取りがこの作品の本質を物語っている気がした。
 
実はこの映画、やや地味なテーマながらスタッフ、出演者が何気にすごいなと思って見てみたというのが正直なところ。
監督は、俳優としての活動の方が日本では有名なロバート・レッドフォード
ロバート・レッドフォードは監督としてはあまり馴染みがないけれど、『リバー・ランズ・スルー・イット』や『モンタナの風に抱かれて』といった大自然を舞台にした個人的には好きな作品がいくつかある。
監督としてオスカーも取っている(『普通の人々』)のだが、クリント・イーストウッドとは違い、監督業としては寡作なせいであまり"ディレクター"のイメージがないのでは?と推察。
 
お喋り好きでひねくれ者のユダヤ人の前クイズチャンピオン、ハービーを演じるのは、ジョン・タトゥーロ
コーエン兄弟作品に常連の曲者俳優だが、饒舌で理屈っぽい性格のハービー役はぴったりマッチしている。
本作は、カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した『バートン・フィンク』の後に制作された作品になり、実に対照的な演技と感じた。
どちらの作品もジョンがしこたま汗をかかされるのは変わらないけど。
 
良心の呵責に苛まれながらも不正を享受してしまう、チャールズ役はレイフ・ファインズが演じている。
レイフ・ファインズといえば、スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』においての残忍なナチスのSS将校、アーモン・ゲート役を忘れるわけにはいかないだろう。
あるいは最近では、『ハリー・ポッター』シリーズの闇の帝王、ヴォルデモート卿と言った方が通りがいいかも知れない。
今回図らずもレイフ・ファインズの"普通の演技"を初めて見たが、高名な父親に認められたいといった親子間での微妙な感情や、悪いとは思いつつも一方でクイズで有名になりたいといった揺れ動く心の葛藤など上手く表現していていい役だなと思った次第。
 
最後に小ネタをひとつ。
こちらは役者としてよりも監督としての方が圧倒的なネームバリューがある、バリー・レヴィンソンとマーチン・スコセッシの両名が俳優としてカメオ出演している。
レッドフォードに対する友情出演か何かであろうか?
ハリウッド映画ファンとしては思わずニヤリとしてしまった。どんな役で出ているか興味のある方はぜひ一度ご鑑賞を。
 
私的評価:★★★★☆

 

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20)インビクタス/負けざる者たち

インビクタス/負けざる者たち (2009年 米)


舞台は、人種隔離政策(アパルトヘイト)の影響が色濃く残る1994年の南アフリカ共和国
 
ネルソン・マンデラが同国初の黒人大統領に就任するところから物語は始まる。
アパルトヘイトは撤廃されたものの、依然として人種的に分断され貧困にあえぐ南アフリカが、1995年に同国で開催されたラグビーのワールドカップを通じて、国全体が盛り上がりを見せ、国民が徐々に一体感を醸成していく過程が描かれる実話である。
 
ラグビーは当時の南アでは白人裕福層のためだけのスポーツであり、ある種アパルトヘイトの象徴でもあった。
マンデラは強力なリーダーシップと"赦し"の精神を持って、そのラグビー代表チームにあえて目をかけ、民族の融和を図ろうと奔走する。
なるほど。新体制となった南アフリカはこうして再生したのか...ということがスポーツ映画という一級のエンターテイメントの力を借りてよく理解できる。
 
1995年のラグビーW杯と言えば、日本人目線だと、ニュージーランドオールブラックスに日本代表が100点差以上という1試合の最多得失点差記録を作られ惨敗した... という負のイメージしかなかったが、(本作の中でも1シーンで言及あり)地元ではこんなドラマが展開されていたのですね。恥ずかしながらこの映画を見て初めて知った次第。
 
弱小チームが不屈の精神を持って強い相手に打ち勝っていく... フィクションならば使い古されたモチーフだが、実話であるが故に妙に説得力があり陳腐さは感じられない。
南アフリカアパルトヘイトを背景としているものの、政治的なメッセージだけの一面的な内容とせずに、うまくラグビーのW杯をからめ、映画的カタルシスを味わうことができる魅力的な脚本として仕立てられていて非常に興味深い作品である。
 
監督は大御所、クリント・イーストウッド。彼の監督作品は古くは『ファイヤーフォックス』あたりから、最近では『アメリカン・スナイパー』まで、結構観てきているが(もちろん未見の作品も多数あり)、イーストウッド映画では私的ベスト1にランクインするくらい、好きだなこの映画。
 
主役のネルソン・マンデラを演じるのは、名優、モーガン・フリーマンマンデラ本人からもお墨付きをもらったというエピソードもあるように、もうこの人しかいないと思わせる程のハマリ役。
マンデラの常に笑顔を絶やさない優しい表情と、信念を持った強い眼差しを巧みに演じ分けていて、その熱演ぶりは次第にマンデラ本人では?と思えてくる程のレベル。
 
最後に、覚え辛く変わったタイトルだと思ったので、見終わった後に調べてみたところ、インビクタスとは、ラテン語で「屈服しない」とか「征服されない」といった意味だそうだ。
物語の中では、投獄されていた時代からマンデラ座右の銘とする言葉が載る詩の題名として登場するのだが、この映画では盛んにその詩の一節が繰り返され、全編に渡り「インビクタス」がキーワードとなっている。
 
それは、南アラグビー代表チームとしてのインビクタスであると同時に、様々な反発や苦境に置かれても決して屈しないマンデラの矜持としてのインビクタスでもある。
 
私的評価:★★★★★ 

 

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19)エクスペンダブルズ2

エクスペンダブルズ2 (2012年 米)

 
シルベスター・スタローンがその人脈でかき集めた往年のアクション俳優陣によるアンサンブル映画の第二弾。
 
主に80年代以降に活躍してきたマッチョマン達が、銃弾の雨あられを降らせ、殴り合いやナイフを使った格闘などの肉弾戦をこれでもかと繰り広げる軍事アクション映画である。
シリーズの1作目も観ているが、飛び交う銃弾の数も、死ぬ人間の数も半端ではない。もちろんその筋肉量も1作目に比べて数段レベルアップしている!?
 
前作から続投のシュワちゃんブルース・ウィリス、さらにはジェイソン・ステイサムドルフ・ラングレンジェット・リーなどおなじみの面々に加え、今回の敵役はジャン=クロード・ヴァンダムという念の入れようである。これは期待せずにはいられない。
このメンツだけでもお腹いっぱいなのに、今作にはなんと伝説の男チャック・ノリスまでご登場である。70年代〜80年代のハリウッドアクション映画で育ったワタシのようなおじさんはもう狂喜乱舞する他ない。
 
これらの豪華俳優ありきの強引な配役やトンデモ展開が若干気にはなるものの、この映画にリアリティだの、人間ドラマだのを求めるのは野暮というもの。
ストーリーは二の次、とにかく観客を楽しませることに徹底的に拘った爽快なまでの突き抜けっぷりに拍手を送りたい。
観客と言っても、チャック・ノリス?誰このジジイ?と思っているような若い人や女性は見向きもしないだろう。
ターゲットはワタシと同年代以上のおっさんに限られる極めて男臭い、おっさん達によるおっさん達のための映画に仕上がっている。
 
並み居るおっさん消耗品(=エクスペンダブルズ)仲間において、途中で殺されてしまう新メンバーのビリーを除けば一番若い(?)であろうジェイソン・ステイサムのケンカ闘法やセリフ回しなどはとにかくカッコイイ。
先日鑑賞したワイルド・スピードスカイミッションでも清々しいほど憎たらしい凄腕の悪役を演じていたが、ジェイソンは今ハリウッドで最もクールでセクシーなハゲ..否スキンヘッド俳優だと思う。(褒め言葉)
 
世界的に評判がいいのか本作はシリーズ化され、3作目も昨年封切られていたが(そちらは未見)、4作目もスタローンはやってくれそうだ。
これらスターの競演を誰もが一度は夢見るも企画倒れに終わりそうな、そんな映画シリーズを現実のものとして私達に提供してくれるスタローンには素直に敬意を表したい。
もうすでに還暦を過ぎて結構たっているはずだが、彼の映画への情熱は、スクリーンの中の役柄同様に今もなお衰え知らずのようだ。
この際、余計なことは考えずに頭を空っぽにして鑑賞したい。マッチョジジイ万歳。
 
私的評価:★★★★☆ 
 

18)戦場のピアニスト

戦場のピアニスト (2002年 仏・独・波・英合作)

 
ようやく観る機会を得た。
 
当備忘録の最初の方でたまたま立て続けに鑑賞した『プレデターズ』『ヴィレッジ』に出演していたエイドリアン・ブロディが、米オスカーの主演男優賞を受賞し、カンヌではパルムドール、英国ではアカデミー作品賞など各国の映画賞を総なめにした作品。
エイドリアン・ブロディは、実在のユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンを演じている。
 
舞台は第二次世界大戦が勃発しナチスドイツの侵攻にさらされたポーランドの都市、ワルシャワ
ワルシャワ在住のユダヤ人が次々とナチスドイツのホロコーストの犠牲となっていく様をシュピルマンの視点で捉え続けた戦争映画である。
全体的な印象としては、この手の映画特有のドンパチ表現や映画的なドラマチックな展開はかなり控えめで、実に淡々とした映像に仕上がっている。
淡々としているが故のリアリティがあり、直接訴えかけてくるような怖さがある。
 
監督のロマン・ポランスキーは、実際にユダヤ系のポーランド人であり、第二次大戦期にユダヤ人ゲットーに押し込められ、ドイツ軍に苦しめれた経験を持っているそうで、序盤から、これでもかと言わんばかりのドイツ軍の蛮行描写を見せつけられる。
特別な理由などなく、ただユダヤ人だからというだけで躊躇なく引き金をひくドイツ兵...。
車椅子ごと高層アパートのベランダから放り落とされるユダヤ老人...。
街中のそこかしこに転がる死体をまたいで往来するゲットーの日常...。
そこには、平和ボケの現代に生きる私たちにとって、まさに想像を絶する極限の光景が広がっていた。
 
友人たちの機転や仲間たちの協力により、強制収容所送りは免れ、さらには隠れ家を転々としながら命を繋いでいくシュピルマン
ワルシャワ・ゲットーを脱出した中盤以降は、逃げる、隠れる、また逃げる、のさながら"サバイバル映画"の様相となっている。
シュピルマンが生き残れた奇跡は、こういった周りの人たちの好意の積み重ねがあったことも忘れてはならないだろう。
 
そして、戦争も終盤に差しかかかった1944年、ドイツに対する反抗勢力らによるワルシャワ蜂起が勃発するも結果的には失敗に終わり、ドイツ軍は報復としてワルシャワ市街の徹底的な破壊工作に打って出る。
ドイツ軍の病院に一時的に隠れていたシュピルマンが命からがら市街地へと逃げ出して行くシーン。足下がフラフラのシュピルマンをカメラが遠目から引きの画でとらえていき、廃墟となってしまったワルシャワ市街の全容が現れる場面に絶句・・・。
廃墟と呼ぶのが生易しいくらいに破壊し尽くされた街並み。次の瞬間、これどうやって撮影したんだろう?という疑問が頭をよぎる。オープンセットなのか?それともCG合成なのか?いずれにせよ、この映画を象徴する場面のひとつになっている。(下記リンク先のDVDパッケージご参照)
 
この作品の原題「The Pianist」のタイトルから想像するにピアノ演奏の場面が結構あるのかと思いきや、意外にもピアノシーンは少ない… 否、逆に少ないからこそかえってピアノ演奏のシーンがより鮮烈に引き立つ効果があると感じる演出。
その象徴ともいえるのが、物語のラスト、隠遁していた廃屋でドイツ軍将校に見つかり、命じられるがままに演奏した場面である。
最初こそ恐怖や逃亡生活の疲れからか、たどたどしい旋律で始まるものの、徐々に抑圧されていた気持ちが開放していき、終盤にかけてショパンを見事に演奏してみせ、静かに見守っていたドイツ将校を唸らせる。
シュピルマンはピアニストだからこそ命を繋ぐことができた。ピアノが生きる希望、また生かされる意味だったのだ。
 
エイドリアン・ブロディは、配役毎に全然印象が異なる演じ分けっぷりに、以前「いい役者」と言及したが、この彼の代表作でも、どんどんやつれ、耐え忍ぶ悲劇の主人公にぴったりハマったイメージであり全く違和感はない。
実際のシュピルマンさんとはあまり似ていないとの意見もあるようだが、彼の熱演なくしてこの映画の成功はなかったと思われる。
 
シュピルマンさんは21世紀が始まる直前までご存命だったので、映画のストーリー的にはもちろんハッピーエンドなんだろうけど、重い、とてつもなく重く、そして考えさせられる映画だった。
 
私的評価:★★★★★ 

 

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