48)月に囚われた男
月に囚われた男 (2009年 英)
妙なタイトルのこの映画、観る前には全く期待していなかったのだが、なかなか面白い映画に当たった。これだから過去映画漁りはやめられない。
全編サム・ロックウェルほぼ一人で進行するという、低予算を逆手に取ったストーリーが面白い。始まってすぐに画面から目が離せなくなってしまった。
近未来、月の裏側でたった一人資源を採掘する仕事に従事する男、サム・ベル(サム・ロックウェル)。
地球との直接通信は許されず、話し相手は1台のAIロボット「ガーティ」だけという環境であったが、3年に渡るサムの孤独な月面での仕事もあと2週間で終わりを迎えようとしていた。
そんな最中、サムの周りで不思議なことが起こり始める...というのがあらすじになる。
サム・ロックウェルの一人芝居がとにかく面白い。実は中盤から、サム自身による二人芝居(?)になるのだが、クローンのはずなのに完全に別人に見える。この違和感ない演じ分けが何気に凄いと思う。
サム・ロックウェルはこれといった代表作も思い当たらず、私の中でこれまでほとんど印象に残る役者ではなかったが、なかなかの芸達者ぶりに感服。
唯一の話し相手はAIロボのガーティだけという特異な環境下での孤独、焦燥感から、時にガーティに対して辛く当たったりするサムだが、そんな相棒の軽口にもいつも冷静に受け止めてあげるガーティ。
このガーティの声の主はどこかで聞いたことあるなーと思っていたら、なんと、ケビン・スペイシーだった。
ケビン・スペイシーの抑揚を抑えた落ち着いた声と、モニター部分に表示されるその時々の感情を表すニコちゃんマークが相まって、相棒「ガーティ」が実にいい味を出している。
予算の関係かもしれないが、天井に敷設されたレールを伝って月面基地内を移動する、天井吊り下げ式ロボットという発想も斬新だ。
SF映画に出てるくロボットといえば、人間を裏切る(敵役)設定が相場だが、前回観た『インターステラー』同様、このガーティも最後まで人間に寄り添ってくれるいいヤツだった。
ただ、中盤までは先の気になる展開ゆえにかなり引き込まれて観ていたのだが、終盤に向けてはちょっと尻すぼみ感が出てきてしまい... 脚本にもうひと捻りがあったら、文句なしに★5つを付けられる傑作なのに!とも感じる。
さらに、ミステリー要素はあるものの必要以上に観客を煽るといったシーンはなく、展開が淡々としていてリアリティーがある反面、娯楽映画的な衝撃度はいまひとつかもしれない。
ラストもハッピーエンドなのか、バッドエンドなのかよく分からないまま終わってしまった感じだ。
この作品を観ながら改めて思ったのは、日本でもこんな映画が作れないだろうか?ということ。
たとえ予算がなくても、アイディアと脚本次第で面白い映画が作れる、の典型例だと思うので、日本でも絶対に作れそう。
少女漫画が原作の子供向け映画や、変に小難しいお涙頂戴映画ばかりでなく、このような映画ファンを唸らせるシンプルで面白い日本映画をぜひ作って欲しいと思う。
最後にひとつ。この映画、原題はただの『Moon』らしい。これだと月のどういう物語なのかイメージがあまり沸いてこない。(=観る気が起きないと思う)
邦題は『月に囚われた男』である。個人的には映画の内容を絶妙に表したセンスのいいタイトルだと感じた。原題を超える邦題を久しぶりに見た気がする。
私的評価:★★★★☆
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