映画鑑賞備忘録

突然ですが、最近は映画館に行ける余裕もあまりなく... 主にTVで観た旧作映画の感想など思うがままに書き綴っています...。

53)ビッグ・フィッシュ

ビッグ・フィッシュ (2003年 米)

奇才、ティム・バートン監督によるハートウォーム・ファンタジー。
ティム・バートンの作品は結構網羅していたつもりだが、未見のものもいくつか残っていて本作もその一つだった。

 

不治の病に倒れた父のおとぎ話のような波瀾万丈の人生を息子がトレースしていく物語。そんなあらすじだけ見ても否応なしに期待が高まる。

誰に対しても自身の冒険ホラ話を聞かせるのが大好きな父・エドワード。そして、小さい頃はそんな父の話が大好きだった息子のウィルも成長とともにその荒唐無稽さに気が付き、嫌悪感まで抱くようになり徐々に疎遠になっていく。
どこまでが本当か分からない父の若き日の思い出話と、年老いて病に倒れたその父に会いに行く現在の息子夫婦の場面が、交互に切り替わりながらストーリーは進行していく。

 

父の思い出のおとぎ話のシーンでは、まさにティム・バートン節が全開で、実に色彩豊かな美しく、摩訶不思議な映像世界が繰り広げられる。
一方、現在の父が病床の場面では、そういったファンタジー色を排しやや暗めのトーンになっていて、回想と現実の場面対比が面白い。

 

やがて父の死期が近づき、長くわだかまりのあった父と息子がホラ話で分かりあい、次第にファンタジーと現実が交錯していく終盤にかけての展開が絶妙だ。
今わの際に、息子が父を抱きかかえて川に連れていき、そのまま川に落とすと、父が大きな魚に変身して泳いでいくシーンは本作のクライマックス。
そして、父の葬儀には、父のおとぎ話の登場人物たちが皆集まってきて故人を偲ぶ。「父の話が"若干脚色された"本当の話だったこと」や「父がいかに多くの人に愛されていたのか」を息子夫婦とともに観客の私達は気づかされることになる。
そんな優しいラストに自然と涙がこぼれる、実に心地のいい映画だった。

 

若き日の父・エドワード役のユアン・マクレガーの笑顔を絶やさない溌剌とした演技に何かと目が行きがちだが、死を目前にしながらも、人を楽しませることを忘れないどこかお茶目な現在の父を演じたアルバート・フィニーと、そんな父を静かに見守る母役のジェシカ・ラングの好演なくしてこの映画は語れないだろう。
特に、死期を悟った父(フィニー)が、ビッグ・フィッシュよろしく水を張ったままのバスタブにパジャマを着たまま沈んでいる(隠れている?)のを母(ラング)が見つけ、そのままお互い無言のままでバスタブで抱き合うシーンは必見だ。
老齢に差しかかった夫婦が見せたこの何とも素敵なシーンは、私がこれまで観た映画の中でも5本の指に入る名ラブシーンとして推薦したい。

 

私的評価:★★★★★