映画鑑賞備忘録

突然ですが、最近は映画館に行ける余裕もあまりなく... 主にTVで観た旧作映画の感想など思うがままに書き綴っています...。

50)エクス・マキナ

エクス・マキナ (2015年 英)

AIヒューマノイドの反乱を主軸においた密室サスペンス。 レックス・ガーランド監督作品。

耳馴染みのないタイトルの「エクス・マキナ」とは、ラテン語で「機械仕掛けの~」といった意味だそうだ。
元々はギリシャ悲劇などの「デウス・エクス・マキナ」と呼ばれる演出技法からきていて、物語の内容が混沌としてきた時に、突然現れた"神"が一気に難題を解決してしまうやり方を指す。
その神がクレーンのような機械の仕掛けで突然現れる様を由来とする言葉なのだそうだ。
女性型ヒューマノイドを、物語を悲劇的に解決する「神」として、比喩的に表現したタイトルということか。

 

GoogleあるいはFacebookを彷彿とさせる、IT企業「ブルーブック」で働く若手エンジニアのケイレブは、社内の抽選でブルーブックの社長であるネイサンの別荘を訪問する機会を得る。
山深い場所にあるそのネイサンの別荘とは、実は人工知能の研究開発施設で、ケイレブは抽選で選ばれたわけではなく、訳あってネイサンが指名したものだった。
別荘には当初ネイサン以外の人間はいないかと思っていたケイレブは、その後女性型ヒューマノイドエヴァと対峙することになっていく。

 

一風変わった作風の映画だが、舞台となる山岳地帯の自然や強化ガラスの扉で覆われた未来的な別荘など、その斬新な映像は非常に美しい。
あえて峻険な環境にある"山荘"を舞台としたことで、別荘内部のハイテク設備の奇異さが一層きわ立ち、また外界との隔絶よる密室感も適度に高まっている。うまい演出だ。
登場人物が限られる密室劇であるがゆえに、会話中心のストーリー展開になるが、AIに関する興味深いうんちくが個人的にはとても面白く、全く飽きることがなかった。

 

ヒューマノイドエヴァは、顔は人間だが、お腹周り、腕、足が半透明で、内部で青色LEDが光っているのが透けて見える構造になっており、演じるアリシア・ヴィキャンデルの美貌と相まって何とも幻想的だ。
アリシア・ヴィキャンデルはこの作品で初めて見たと思っていたのだが、実はこれを見るよりも前にスクリーンでお目にかかっていたことに後で気が付いた。(最近こんなのばっかりだが)
マット・デイモンの『ジェイソン・ボーン (2016年 米)』においてヒロイン役で出ていたあの女優さんであった。Wikipediaによると北欧スウェーデンの出身らしい。ややエキゾチックな顔立ちの正統派美人ゆえに、魅惑のロボット役がよく似合う。

 

昨今売り出し中の若手俳優が揃って出演しているのもこの映画の特長のひとつ。
主演のケイレブ役は、最近話題作に立て続けに出演している、若手の注目株ドーナル・グリーソン。
アリシア・ヴィキャンデルは、上述の『ジェイソン・ボーン』のほか、2015年には『リリーのすべて』でアカデミー賞助演女優賞を獲得して一気にブレークした。
一方のネイサンは、顔面に髭を蓄え、筋トレに余念がないアル中気味の天才創業者という役どころなのだが、序盤から抜け目のない怪しい雰囲気を醸し出していて最も印象深い。
演じる役者名を見ると、オスカー・アイザックとある。オスカー・アイザック..? なんと、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のポー・ダメロンであった。
同一人物には全く見えない。恐ろしい性格俳優ぶり。

 

劇中の様々な効果音や音楽などもクオリティーの高い映像にマッチしていて違和感がない。エヴァが素早く動く際に発する何とも形容しがたい音や、ケイレブの心情に呼応するかのような、静かだがお腹のあたりにジワジワくる音楽も絶妙だ。

 

AIが創造主である人間に対して反抗する、もはや手垢にまみれたテーマだが、本作は静かにそして淡々と遂行されるところが新しい。当然「スカイネット」のような派手さこそないものの、ある意味『ターミネーター』以上に怖い映画だ。
終盤エヴァが一人で別荘を出て行こうとするときに後ろを振り返り、劇中最初で最後の笑顔を見せる。このシーンには背筋に冷たいものを覚える。それは誰かに見せるためのものではなく、目的が達成されたことへの満足感から自然発生した笑顔であったからだ。

若干のエロいシーンも盛り込まれ、R-15指定の作品になっているが、妖艶な女ロボットによる静かなる反乱は一見の価値ありと言っておこう。

 

私的評価:★★★★☆