映画鑑賞備忘録

突然ですが、最近は映画館に行ける余裕もあまりなく... 主にTVで観た旧作映画の感想など思うがままに書き綴っています...。

37)海街diary

海街diary (2015年 日本)

吉田秋生作の人気コミックの実写化作品。監督・脚本は、昨今は作品を発表する度に話題に上る是枝裕和。出演は綾瀬はるか広瀬すず長澤まさみ他。


鎌倉の古家に住む三姉妹と、父の死をきっかけに一緒に暮らすことになった異母妹による、なにげない"日常"を綴ったほんわかムービー。
図書館でふいに目に止まって以来、原作コミックは既刊のものは読んだことがある。原作を知る者としての感想になることを付記しておく。

基本的に原作を忠実にトレースしており、各エピソードもほぼそのまま描かれているため、原作ファンでもすんなり映像に入っていける。
これ、当たり前に思いがちだが案外難しいのではないだろうか? 映像化するにあたって、諸事由により原作から設定・ストーリーが改変されてしまう例も多々目にするので。
また当然のことながら、原作を知らない人でも、異母妹すずとの出会いから始まるのはコミックと同じであり、得に違和感はないだろう。
ただし、悪性腫瘍により片足の切断を余儀なくされる、すずのサッカークラブのチームメイトが出てこなかったのは少々残念だった。
単に尺の問題だけではなく、末妹すずが想いを寄せることになるこの子自体の存在をなくして、恋愛要素を映画から排除するという狙いがあったのかもしれない。

 

このように、本作は胸キュンなラブ・ストーリーというわけでもなく、大きな事件があるでもない。待ち受けるトラブルに打ち勝っていくようなカタルシスもない。
古都鎌倉での「四姉妹」の"日常"が淡々と、そして時に瑞々しく描かれるだけの内容である。でもなぜかラストまで飽きることはない、不思議な映画だ。
是枝裕和による、光と影、濃・淡のはっきりした映像が、鎌倉の海や空を柔らかく切り取っている。よく知る場所が、ちょっと違って見える。

 

長女役の綾瀬はるかは、当初幸のイメージじゃない! (原作の長女、幸はショートヘアでもっとビシっとした印象) と思っていたが、なかなかの熱演で、これはこれでアリと思えてきた。
さらに、次女、佳乃役の長澤まさみも好演していたが、何と言っても原作のイメージにピッタリだと思ったのは、三女、千佳役の夏帆だ。失礼ながらこの人をこれまで知らなかったのだが、姉妹間の潤滑油という難しい立ち位置を見事に演じていて、一番ハマっていたように思う。

 

そして、四女すず役は、今この役を演じられるのは同名のこの人しかいないでしょ!と思われての抜擢であろう(?)、広瀬すず
初めてお姉さま方に対峙するときにはぎこちない(よそよそしい)感じだったのが、一緒に暮らすうちにだんだんと打ち解けて家族の一員になっていく様をごく自然に演じていて、好印象だった。
また、何とも豪華な共演陣、堤真一大竹しのぶリリー・フランキー加瀬亮樹木希林、といった普段は主役級の俳優たちが脇を固める。
是枝監督の人脈により集まった方々であろうか? 意外なチョイ役で見たことのある人が出てきて安心できる。

 

最後に、この映画、食べるシーンがやたら多いのも特徴のひとつ。それも結構印象的な場面で食卓を囲んでたりする。(これまた原作も同じで食にこだわったシーンが多い)
しかも、そのどれもが実に美味しそう。海猫食堂のアジフライ、山猫亭のしらすトースト、そして、幸田家伝統のちくわカレー等々..うまいこと実写化してくれて感謝感謝。
そんなわけで、お腹が空いているときにこの映画を観るのはあまりオススメできない、と忠告しておこう。

 

私的評価:★★★★☆