映画鑑賞備忘録

突然ですが、最近は映画館に行ける余裕もあまりなく... 主にTVで観た旧作映画の感想など思うがままに書き綴っています...。

43)コラテラル

コラテラル (2004年 米)

トム・クルーズジェイミー・フォックス共演のサスペンス・アクション映画。


すごく簡単にあらすじを書くと、凄腕の殺し屋であるヴィンセント(トム・クルーズ)が、マックス(ジェイミー・フォックス)が運転するタクシーをひと晩貸し切り、計5人を殺して回るための送迎をさせる、というお話。

 

似たような時期に、シュワルツェネッガー主演の『コラテラル・ダメージ』という米映画があり、恥ずかしながら最近まで本作とまともに区別がついていなかった。この度よくよく二つの作品を見比べてみて、全く異なる映画であることが判明!(そりゃそうだ、のツッコミはご勘弁..)

 

コラテラル(Collateral)とは、「(不運な)巻き添え」という意味があるらしい。シュワちゃんの映画の方は、「テロでの副次的な巻き添え被害」というものだった。

本作の場合は、「(殺人事件の共犯として)巻き添えになる」といった意味になると思うが、真面目さだけが取り柄のタクシー運転手が、理不尽極まりない犯罪に無理やり付き合わされるという、取っ掛かりとしてはなかなかのアイディア。

ただし、いかんせん突っ込みどころが多すぎて、いま一つリアリティーに欠けるのが残念だ。
凄腕のはずの殺し屋が、一人目を殺す際に、いきなりターゲット(死体)をマンションの窓から下に落っことすという大失態をやらかす。そもそも、何人も殺して回るのに何でタクシーを運転手ごと貸切る必要があるのだ?自分で車でも調達して回った方が危なくなくね?とか、冷静に考えてみると、いくらなんでも場当たり的、やることなすこと犯罪発覚リスクが高くてとてもクールな殺し屋に思えないのである。
さらには、マックスにターゲットの情報が入ったPCを捨てられて、殺しの依頼主に情報のコピーをもらいに行かせるくだりなんて、もうギャグかと...。

 

そんな一見ちょっと抜けている感じの殺し屋なのだが、これがトム・クルーズが演じると超絶クールに見えてきてしまうである。これはひょっとして凄いことではないだろうか。
アクションのキレやその動きのしなやかさ、華麗なガンさばきなどは、さすがは稀代のアクション・スターである。もはやこれを見るだけでもこの映画の価値はあるとさえ思える。
おそらく、並みの俳優が演じたならば、そのまま"お間抜け"に見えてきたはずである。

 

一方、不運なタクシードライバーを演じるジェイミー・フォックスだが、夢ばかり見ていて本当にやりたいことをなかなか実行に移せない、という典型的な"善良小市民"からひと皮むけ、文字通りの「コラテラル」を通じて強く変わっていく心の動きを自然に演じていて、こちらもなかなかの好印象であった。
(この備忘録でも以前記事を書いた)オスカーを受賞した『Ray/レイ』と、この『コラテラル』の公開は奇しくも同じ2004年だったようで、彼にとってこの年は非常に濃密な一年だったのではないだろうか。

 

私的評価:★★★☆☆

 

コラテラル (字幕版)

コラテラル (字幕版)

 

 


 

42)シャッター アイランド

シャッター アイランド (2010年 米)

巨匠マーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ主演のミステリー映画。


この二人のタッグは一体この作品で何作目なんだろうか..?と迷うくらいによく二人で組んで映画を作っている印象がある。
アビエイター』『ディパーテッド』はよく覚えているけど、どちらもかなり重苦しい内容だったよなあ..。
ただスコセッシの映画は、どの作品においても、重苦しい雰囲気の中にも描くものは常に「人間」であり、心に刺さる作品が多い。時として目を覆いたくなるようなリアルな暴力描写もままあるが、個人的には好きな監督だ。


本作も重苦しいテーマに変わりはないが、先の2作品とやや趣が違うのは、序盤からいくつかの謎が提示され、それが終盤に向かってどう回収されていくのか?という楽しみのある、いわゆる"どんでん返し"系の映画であると喧伝されていたことか。

 

時代は第二次世界大戦の残滓も色濃く残る1950年代、連邦捜査官のテディ(レオナルド・ディカプリオ)は、ボストン沖にあるシャッターアイランドと呼ばれる孤島の精神異常犯罪者の収容施設を訪れる。

この島で行方不明になった一人の女性患者を捜索するという名目だったのだが... 心に深い傷を持つテディには実は当初は隠していた真の目的があった・・・というのがあらすじになる。

途中頻繁にテディの幻想(妄想?)がフラッシュバック的に挿入され、過去に何があったのか?が、初見ではとても分かりづらい。ここで、今は亡き妻の幻影に惑わされることになるのだが、この描写が、最近観たディカプリオ主演の別作品『インセプション』と頭の中でオーバーラップしてしまって、余計に混乱した。
スコセッシの作品はどれもそうだが、気を緩めて見ていると付いて行けなくなることがあるので、多少の注意が必要かもしれない。

 

この手の映画に見慣れた方なら中盤くらいでオチが何となく分かってしまうのはご愛嬌だが、オチが読めてもラストが気になる展開はさすがの演出力。リアルで重厚な映像と芸達者な俳優陣のおかげでダレることなく最後まで画面に引き付けられる。
オチが途中で読めてしまったので、最後は「完全にスッキリ」という訳にはいかなかったものの、「ああ、なるほど」くらいの納得感はある"読後"だ。

 

それにしても、レオナルド・ディカプリオはいい役者になったなぁと改めて実感した。
最近、『華麗なるギャッツビー』や前述の『インセプション』さらには『ブラッド・ダイヤモンド』あたりを立て続けに観たんだけど、どれもその役柄への"なりきり"振りに圧倒される印象。
ディカプリオを初めてスクリーンで認識したのは確か『ギルバート・グレイプ』だったと記憶するが、この子本物の知的障がい者では?と思わせるくらいにハマっていたのを思い出す。それを考えると、既に10代の頃から別格の役者だったということか。

 

私的評価:★★★★☆

 

 


 

41)ニューヨーク1997

ニューヨーク1997 (1981年 米)

この映画、ずいぶんと昔に観た記憶はあるのだが、内容をまるで覚えてなく、先日たまたまBSプレミアムで放映していたので鑑賞してみた。

ジョン・カーペンター監督とカート・ラッセル主演の黄金コンビによる近未来アクション・ムービー。近未来といっても、今となっては遥か昔、タイトル通り1997年のニューヨークが舞台となっている。

特にすんごいガジェットだったり、きらびやかな街並みだったりが出てくる訳でもなく、81年にリアルタイムで見ていたとしてもあまり"未来"は感じないよなぁ..と思える作風。

 

ジョン・カーペンターといえば、『ハロウィン』や『遊星からの物体X』など、どちらかといえばホラーっぽい作品が得意なイメージがあるが、こういったサスペンス/アクション物もそれなりに面白い。

余談だが、『遊星からの物体X』を初めて観たときはホントに衝撃的だった。とにかく「スゲー!!」な映画だったな。"物体X"のあのグロテクスで独創的な造形に度肝を抜かれたのをよく覚えている。

 

翻って本作だが、まず、ニューヨークに犯罪者が増えすぎてもう面倒くさいからマンハッタン島全域を封鎖して丸ごと監獄にしてしまえ!という設定がユニーク。
大統領を乗せたエアフォースワンがハイジャックされ、監獄島と化したマンハッタンのビル群に突っ込むというくだりは、本作公開のちょうど20年後の「9.11」を想起せざるを得ないシーンであろう。

しかも、カートラッセル演じるスネーク・プリスキンが、大統領救出の任務を帯びてグライダーに乗って潜入するのが、その9.11で倒壊した世界貿易センタービルというおまけ付きだ。何か暗示めいたものを感じてしまうのは私だけではないはず。

 

犯罪者の手に落ちたVIPを単身救いに行くというのは、今となっては手垢の付いたプロットにも思えるが、ひょっとしてこの映画が"はしり"だったりするのかもしれない。

つい最近『ワイルド・スピード』シリーズの最新作で久しぶりに見たカート・ラッセルは、さすがに老けたなぁ..と思わずにはいられなかったのだが、この映画では、当然のことながら若々しくてクールなカート・ラッセルに会える。

ただし、昨今の『ワイルド・スピード』や『ジェイソン・ボーン』シリーズなどのハイテンション・アクションに見慣れた目で見てしまうと、いかんせんアクションの一つ一つやストーリー展開そのものがスローモー。
場面の繋ぎなどのカメラワークがブツ切れに感じられ、それらがB級映画感を醸し出している原因のひとつかと思えるほどだ。

また、スネーク・プリスキンは、24時間以内に大統領を救出して帰って来ないと、頸動脈に注射された小型爆弾が爆発してしまう仕掛けを施されるのだが、「もう時間がない!!」といった緊迫感があまり画面から伝わってこない。故に観る側としてもテンションが長続きしないのが惜しい。80年代当時の予算規模の小さいアクション映画の限界が見えてしまうところである。

 

とは言っても、その世界観や設定のアイディアなどは決して悪くなく、共演陣もなにげに豪華で驚いた。
以前観たときは、それこそカート・ラッセルしか認識できなかったのだが、今改めて見直すと、警察側のボス役は、往年のマカロニ・ウェスタンで渋い悪役を演じていた、名優リー・ヴァン・クリーフ
さらに、捕まった米国大統領をややコミカルに演じているのは、なんと『ハロウィン』シリーズのルーミス医師役でお馴染みの名バイプレーヤー、ドナルド・プレザンスではないか!

 

ややもすれば"カルト映画の巨匠"とも揶揄されるジョン・カーペンターだが、私は彼の作品群は決して嫌いではない。むしろ好き。
最近このクリエイターの作品をあまり聞かなってしまって久しい気がするが、願わくば潤沢な資金と最新の技術を使って、ぜひニューヨーク1997のような新作を期待したいところだ。

 

私的評価:★★★☆☆

 

ニューヨーク1997 [DVD]

ニューヨーク1997 [DVD]

 

 

 

40)オール・ユー・ニード・イズ・キル

オール・ユー・ニード・イズ・キル (2014年 米)

 

日本人作者のライトノベルを原作としたSF・アクション映画。
トム・クルーズ主演。監督は、『ボーン・アイデンティティ』シリーズをヒットさせた実績を持つダグ・リーマン

 

地球侵略にきたエイリアンとの戦闘において、なぜか死んでも死んでも甦って出撃前にリセットされるという、いわゆる「タイムループ」がテーマとなっている。

そんな出来の悪いロールプレイングゲームのような設定でも、過去のトム映画同様のドキドキワクワクを与えてくれるのか..?若干の疑念を抱きつつの鑑賞となった。

ところが、そんな疑念も杞憂に終わり、稀代のアクション・スター+緻密に練られた脚本のおかげで、トムのフィルモグラフィーの中でも指折りの作品に仕上がっていると断言できる。

イムループ物にありがちな分かりにくさや冗長さといったものはほとんどなく、繰り返しの場面も適度に省略したりといった小気味よいテンポで、最後まで飽きることなく楽しめる。

 

いかにも日本風な趣向の原作と本作とでは内容的にかい離しているとの評価も散見されるが、これ単体で見ると、どこをどう切り取ってもTHE・ハリウッド映画。

原作の大まかなプロットを継承しつつ、万人受けするツボを心得た演出により、うまく娯楽大作として昇華させることに成功している。

 

冒頭での主人公は軟弱で臆病者であり、いつもとはどこか違うトム・クルーズ氏で物語は始まっていくが、文字通りの死線を繰り返すうちに段々と戦う男の表情になっていく様が見どころの一つ。
生死のループを繰り返す中で、行動面あるいは感情面に変化をつけなければならない、という難しい役どころを見事に演じている。

そして違和感なくヒーローへと昇りつめるトムの相棒となる女性兵士、リタ・ヴラタスキを演じるエミリー・ブラントも素晴らしい。
こちらもいつもとはかなりイメージが違う、マッチョでストイックなヒロインを熱演している。何年か前にあの「ヴィクトリア女王」を演じていた人と同一人物とはとても思えない。とにかくカッコいい。

 

この作品のタイトルを意訳すると『殺しこそすべて』。言わずと知れたビートルズの名曲タイトルをもじったものと思われる。

元ネタになったビートルズ楽曲は、フランス国歌のイントロでつとに有名なわけだが、この作品でラスボスとの対決の舞台となるのが、パリ・ルーブル美術館にあるガラスのピラミッドの下という"小ネタ"に感心。
と、ここまで書いてきて、本国では原作とは違う『Edge of Tomorrow』というタイトルで公開されたことを知る。こうなると、このロケーションが計算されたものかどうかは知る由もない。

 

結末としては、ハリウッド的ご都合主義が垣間見え、初見では思わず「ええっ!?」であったが、トム・クルーズが故に不思議と嫌味には感じられず、これはこれでアリかな..という感想に落ち着いた。

 

私的評価:★★★★☆

 

 

 

 

 

39)ミッション・トゥ・マーズ

ミッション・トゥ・マーズ (2000年 米)

 

近未来の火星探査を描いたSF・ファンタジー作品。ゲイリー・シニーズ主演。ブライアン・デ・パルマ監督作品。

 

数ある火星をテーマにした映画作品の中でも、監督や出演者の知名度が高く、鑑賞前はかなり期待大だった本作ではあるが、ちょっと肩透かしを食らってしまった、というのがまず正直な感想になる。

とにかく様々なSF、宇宙モノ要素の「ごった煮」感が否めない。
惑星探査チームのエースであった、ゲイリー・シニーズが、(妻の不慮の死により)一人火星探査ミッションに行くことができなくなってしまうのは、『アポロ13』と似たような役どころだし。(アポロ13号でのクルー交代は実話であるが...)
トラブルに見舞われ火星でたった一人でサバイバルを強いられてしまうのは、マット・デイモンの『オデッセイ』。
宇宙空間において、事故った宇宙船を放棄して別の宇宙船に乗り移るくだりは、『ゼロ・グラビティ』を彷彿とさせる。
そして何より、クライマックシーンの火星のアレの内部は、あの『2001年 宇宙の旅』をイメージせずにはいられない。

もちろん『オデッセイ』や『ゼロ・グラビティ』は、本作の後発になるので、決して真似したワケではない(むしろ参考にされた方か)のだが… どうもこれらの作品を先に観ていたせいもあり、何とも言えない"既視感"が漂う。

 

無重力状態の表現や宇宙空間での危機的状況の演出などは、この時代の映画とすればよくできていて素晴らしいものがある。ただ、終盤に向けてファンタジー色が出てくると途端に映像が古臭くなるのが残念だ。例えると、『フラッシュ・ゴードン』や初期の『スター・トレック』あたりに共通した趣と言ったらいいだろうか。
最後にファンタジー色が強くなるのはまあいいとしても、唐突感があまりに強く、もう少しうまくまとめられたらよかったのに、とも思う。
火星へと航行する宇宙船の中でなぜかヴァン・ヘイレンの音楽に合わせてダンスをするシーンに至っては、何かの伏線かとも思われたが、最後まで特に何もなく・・・。

前述の通り、本作のクライマックスは『2001年 宇宙の旅』へのオマージュになっている(?)ものの、あちらほど難解な、観客に解釈を委ねるものではなく、ちゃんと説明してくれるあたりはデ・パルマは優しい。

 

それと本筋とは関係ないが、この映画には日本にゆかりのある小道具がいろいろ出てきて別の意味で楽しめる要素がある。
冒頭ゲイリー・シニーズがパーティーに現れる時に乗って来た車が、かつてのいすゞの名車「ビークロス」のカスタム車だったり、火星で活躍しているローバー(探査車)が、なんと川崎重工製だったり!(白いローバーの横にしっかりとKawasakiのロゴ)
さらには、火星で使っていたコンピューターのモニターにもSONYのロゴがあったりするので、そういう目線で見てみるのも面白いかもしれない。

 

私的評価:★★☆☆☆

  

ミッション・トゥ・マーズ [DVD]

ミッション・トゥ・マーズ [DVD]

 

 

 

 

38)第9地区

第9地区 (2009年 米・南ア・新)

 

地球に難民としてやってきた異星人と人類の共存を扱ったSF作品。
劇場公開当時にそれなりに話題になり、映画館で観たいと思っていて結局観に行けなかった本作をようやく鑑賞。
結論から言うと、予想以上に面白かった。さすが話題になっただけのことはある出来。

 

のっけからドキュメンタリータッチで物語は進み、異星人対策チームのリーダーである主人公のことを、周囲の人たちへのインタビューという形でその人となりを明らかにしていく。
あまり見たことのない斬新な構成の映画だ。しかも無名俳優ばかりが出演しているのを逆手にとり、余計にドキュメンタリーっぽさを持たせることに成功している。

 

舞台は南アフリカヨハネスブルグ。突如宇宙船で現れた異星人を難民として「第9地区」という隔離区域に住まわせるところから映画は始まる。
やがて20年の年月が経ち、完全にスラム化した「第9地区」の異星人たちを、MNUと呼ばれる超国家的な異星人対策組織が、別の収容施設へ強制的に移住させようと画策するが・・・。

 

主人公はおろか、誰一人として知っている俳優は出てこないし、何よりその内容からB級映画臭が漂ってきそうなものだが、なかなかどうして、細部までしっかりと作られていて好感を持った。

ストーリーの巧妙さであったり、エイリアンの造形の独創性であったり、異星人の兵器やメカ描写のクオリティであったり、低予算なりのアイディアが満載で安っぽさがほとんど感じられない。

 

甲殻類にも似た醜悪な造形の異星人を始め、結構グロい表現があったりするので、そういうのが苦手な人はちょっと注意が必要かもしれない。
アクションシーンもふんだんに用意され、最後まで目を離すことができない。ストーリーの展開上、ご都合主義的な部分も多少目につくものの、総じて時間を忘れて楽しめるタイプのオイシイ作品であった。

 

SF映画の体をなしているが、人間性を持つ(!?)異星人親子との交流や、主人公自身も"徐々に異星人に変貌していってしまう.."恐怖や葛藤など、人間ドラマとしても充分鑑賞に耐えられる。
加えて、アパルトヘイトという騒乱の歴史を持つ南アフリカが"異星人差別"の舞台という、全編を通じて強烈なアイロニーが見てとれる良作でもある。

 

私的評価:★★★★☆

 

第9地区 [DVD]

第9地区 [DVD]

 

 

 

37)海街diary

海街diary (2015年 日本)

吉田秋生作の人気コミックの実写化作品。監督・脚本は、昨今は作品を発表する度に話題に上る是枝裕和。出演は綾瀬はるか広瀬すず長澤まさみ他。


鎌倉の古家に住む三姉妹と、父の死をきっかけに一緒に暮らすことになった異母妹による、なにげない"日常"を綴ったほんわかムービー。
図書館でふいに目に止まって以来、原作コミックは既刊のものは読んだことがある。原作を知る者としての感想になることを付記しておく。

基本的に原作を忠実にトレースしており、各エピソードもほぼそのまま描かれているため、原作ファンでもすんなり映像に入っていける。
これ、当たり前に思いがちだが案外難しいのではないだろうか? 映像化するにあたって、諸事由により原作から設定・ストーリーが改変されてしまう例も多々目にするので。
また当然のことながら、原作を知らない人でも、異母妹すずとの出会いから始まるのはコミックと同じであり、得に違和感はないだろう。
ただし、悪性腫瘍により片足の切断を余儀なくされる、すずのサッカークラブのチームメイトが出てこなかったのは少々残念だった。
単に尺の問題だけではなく、末妹すずが想いを寄せることになるこの子自体の存在をなくして、恋愛要素を映画から排除するという狙いがあったのかもしれない。

 

このように、本作は胸キュンなラブ・ストーリーというわけでもなく、大きな事件があるでもない。待ち受けるトラブルに打ち勝っていくようなカタルシスもない。
古都鎌倉での「四姉妹」の"日常"が淡々と、そして時に瑞々しく描かれるだけの内容である。でもなぜかラストまで飽きることはない、不思議な映画だ。
是枝裕和による、光と影、濃・淡のはっきりした映像が、鎌倉の海や空を柔らかく切り取っている。よく知る場所が、ちょっと違って見える。

 

長女役の綾瀬はるかは、当初幸のイメージじゃない! (原作の長女、幸はショートヘアでもっとビシっとした印象) と思っていたが、なかなかの熱演で、これはこれでアリと思えてきた。
さらに、次女、佳乃役の長澤まさみも好演していたが、何と言っても原作のイメージにピッタリだと思ったのは、三女、千佳役の夏帆だ。失礼ながらこの人をこれまで知らなかったのだが、姉妹間の潤滑油という難しい立ち位置を見事に演じていて、一番ハマっていたように思う。

 

そして、四女すず役は、今この役を演じられるのは同名のこの人しかいないでしょ!と思われての抜擢であろう(?)、広瀬すず
初めてお姉さま方に対峙するときにはぎこちない(よそよそしい)感じだったのが、一緒に暮らすうちにだんだんと打ち解けて家族の一員になっていく様をごく自然に演じていて、好印象だった。
また、何とも豪華な共演陣、堤真一大竹しのぶリリー・フランキー加瀬亮樹木希林、といった普段は主役級の俳優たちが脇を固める。
是枝監督の人脈により集まった方々であろうか? 意外なチョイ役で見たことのある人が出てきて安心できる。

 

最後に、この映画、食べるシーンがやたら多いのも特徴のひとつ。それも結構印象的な場面で食卓を囲んでたりする。(これまた原作も同じで食にこだわったシーンが多い)
しかも、そのどれもが実に美味しそう。海猫食堂のアジフライ、山猫亭のしらすトースト、そして、幸田家伝統のちくわカレー等々..うまいこと実写化してくれて感謝感謝。
そんなわけで、お腹が空いているときにこの映画を観るのはあまりオススメできない、と忠告しておこう。

 

私的評価:★★★★☆