映画鑑賞備忘録

突然ですが、最近は映画館に行ける余裕もあまりなく... 主にTVで観た旧作映画の感想など思うがままに書き綴っています...。

41)ニューヨーク1997

ニューヨーク1997 (1981年 米)

この映画、ずいぶんと昔に観た記憶はあるのだが、内容をまるで覚えてなく、先日たまたまBSプレミアムで放映していたので鑑賞してみた。

ジョン・カーペンター監督とカート・ラッセル主演の黄金コンビによる近未来アクション・ムービー。近未来といっても、今となっては遥か昔、タイトル通り1997年のニューヨークが舞台となっている。

特にすんごいガジェットだったり、きらびやかな街並みだったりが出てくる訳でもなく、81年にリアルタイムで見ていたとしてもあまり"未来"は感じないよなぁ..と思える作風。

 

ジョン・カーペンターといえば、『ハロウィン』や『遊星からの物体X』など、どちらかといえばホラーっぽい作品が得意なイメージがあるが、こういったサスペンス/アクション物もそれなりに面白い。

余談だが、『遊星からの物体X』を初めて観たときはホントに衝撃的だった。とにかく「スゲー!!」な映画だったな。"物体X"のあのグロテクスで独創的な造形に度肝を抜かれたのをよく覚えている。

 

翻って本作だが、まず、ニューヨークに犯罪者が増えすぎてもう面倒くさいからマンハッタン島全域を封鎖して丸ごと監獄にしてしまえ!という設定がユニーク。
大統領を乗せたエアフォースワンがハイジャックされ、監獄島と化したマンハッタンのビル群に突っ込むというくだりは、本作公開のちょうど20年後の「9.11」を想起せざるを得ないシーンであろう。

しかも、カートラッセル演じるスネーク・プリスキンが、大統領救出の任務を帯びてグライダーに乗って潜入するのが、その9.11で倒壊した世界貿易センタービルというおまけ付きだ。何か暗示めいたものを感じてしまうのは私だけではないはず。

 

犯罪者の手に落ちたVIPを単身救いに行くというのは、今となっては手垢の付いたプロットにも思えるが、ひょっとしてこの映画が"はしり"だったりするのかもしれない。

つい最近『ワイルド・スピード』シリーズの最新作で久しぶりに見たカート・ラッセルは、さすがに老けたなぁ..と思わずにはいられなかったのだが、この映画では、当然のことながら若々しくてクールなカート・ラッセルに会える。

ただし、昨今の『ワイルド・スピード』や『ジェイソン・ボーン』シリーズなどのハイテンション・アクションに見慣れた目で見てしまうと、いかんせんアクションの一つ一つやストーリー展開そのものがスローモー。
場面の繋ぎなどのカメラワークがブツ切れに感じられ、それらがB級映画感を醸し出している原因のひとつかと思えるほどだ。

また、スネーク・プリスキンは、24時間以内に大統領を救出して帰って来ないと、頸動脈に注射された小型爆弾が爆発してしまう仕掛けを施されるのだが、「もう時間がない!!」といった緊迫感があまり画面から伝わってこない。故に観る側としてもテンションが長続きしないのが惜しい。80年代当時の予算規模の小さいアクション映画の限界が見えてしまうところである。

 

とは言っても、その世界観や設定のアイディアなどは決して悪くなく、共演陣もなにげに豪華で驚いた。
以前観たときは、それこそカート・ラッセルしか認識できなかったのだが、今改めて見直すと、警察側のボス役は、往年のマカロニ・ウェスタンで渋い悪役を演じていた、名優リー・ヴァン・クリーフ
さらに、捕まった米国大統領をややコミカルに演じているのは、なんと『ハロウィン』シリーズのルーミス医師役でお馴染みの名バイプレーヤー、ドナルド・プレザンスではないか!

 

ややもすれば"カルト映画の巨匠"とも揶揄されるジョン・カーペンターだが、私は彼の作品群は決して嫌いではない。むしろ好き。
最近このクリエイターの作品をあまり聞かなってしまって久しい気がするが、願わくば潤沢な資金と最新の技術を使って、ぜひニューヨーク1997のような新作を期待したいところだ。

 

私的評価:★★★☆☆

 

ニューヨーク1997 [DVD]

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40)オール・ユー・ニード・イズ・キル

オール・ユー・ニード・イズ・キル (2014年 米)

 

日本人作者のライトノベルを原作としたSF・アクション映画。
トム・クルーズ主演。監督は、『ボーン・アイデンティティ』シリーズをヒットさせた実績を持つダグ・リーマン

 

地球侵略にきたエイリアンとの戦闘において、なぜか死んでも死んでも甦って出撃前にリセットされるという、いわゆる「タイムループ」がテーマとなっている。

そんな出来の悪いロールプレイングゲームのような設定でも、過去のトム映画同様のドキドキワクワクを与えてくれるのか..?若干の疑念を抱きつつの鑑賞となった。

ところが、そんな疑念も杞憂に終わり、稀代のアクション・スター+緻密に練られた脚本のおかげで、トムのフィルモグラフィーの中でも指折りの作品に仕上がっていると断言できる。

イムループ物にありがちな分かりにくさや冗長さといったものはほとんどなく、繰り返しの場面も適度に省略したりといった小気味よいテンポで、最後まで飽きることなく楽しめる。

 

いかにも日本風な趣向の原作と本作とでは内容的にかい離しているとの評価も散見されるが、これ単体で見ると、どこをどう切り取ってもTHE・ハリウッド映画。

原作の大まかなプロットを継承しつつ、万人受けするツボを心得た演出により、うまく娯楽大作として昇華させることに成功している。

 

冒頭での主人公は軟弱で臆病者であり、いつもとはどこか違うトム・クルーズ氏で物語は始まっていくが、文字通りの死線を繰り返すうちに段々と戦う男の表情になっていく様が見どころの一つ。
生死のループを繰り返す中で、行動面あるいは感情面に変化をつけなければならない、という難しい役どころを見事に演じている。

そして違和感なくヒーローへと昇りつめるトムの相棒となる女性兵士、リタ・ヴラタスキを演じるエミリー・ブラントも素晴らしい。
こちらもいつもとはかなりイメージが違う、マッチョでストイックなヒロインを熱演している。何年か前にあの「ヴィクトリア女王」を演じていた人と同一人物とはとても思えない。とにかくカッコいい。

 

この作品のタイトルを意訳すると『殺しこそすべて』。言わずと知れたビートルズの名曲タイトルをもじったものと思われる。

元ネタになったビートルズ楽曲は、フランス国歌のイントロでつとに有名なわけだが、この作品でラスボスとの対決の舞台となるのが、パリ・ルーブル美術館にあるガラスのピラミッドの下という"小ネタ"に感心。
と、ここまで書いてきて、本国では原作とは違う『Edge of Tomorrow』というタイトルで公開されたことを知る。こうなると、このロケーションが計算されたものかどうかは知る由もない。

 

結末としては、ハリウッド的ご都合主義が垣間見え、初見では思わず「ええっ!?」であったが、トム・クルーズが故に不思議と嫌味には感じられず、これはこれでアリかな..という感想に落ち着いた。

 

私的評価:★★★★☆

 

 

 

 

 

39)ミッション・トゥ・マーズ

ミッション・トゥ・マーズ (2000年 米)

 

近未来の火星探査を描いたSF・ファンタジー作品。ゲイリー・シニーズ主演。ブライアン・デ・パルマ監督作品。

 

数ある火星をテーマにした映画作品の中でも、監督や出演者の知名度が高く、鑑賞前はかなり期待大だった本作ではあるが、ちょっと肩透かしを食らってしまった、というのがまず正直な感想になる。

とにかく様々なSF、宇宙モノ要素の「ごった煮」感が否めない。
惑星探査チームのエースであった、ゲイリー・シニーズが、(妻の不慮の死により)一人火星探査ミッションに行くことができなくなってしまうのは、『アポロ13』と似たような役どころだし。(アポロ13号でのクルー交代は実話であるが...)
トラブルに見舞われ火星でたった一人でサバイバルを強いられてしまうのは、マット・デイモンの『オデッセイ』。
宇宙空間において、事故った宇宙船を放棄して別の宇宙船に乗り移るくだりは、『ゼロ・グラビティ』を彷彿とさせる。
そして何より、クライマックシーンの火星のアレの内部は、あの『2001年 宇宙の旅』をイメージせずにはいられない。

もちろん『オデッセイ』や『ゼロ・グラビティ』は、本作の後発になるので、決して真似したワケではない(むしろ参考にされた方か)のだが… どうもこれらの作品を先に観ていたせいもあり、何とも言えない"既視感"が漂う。

 

無重力状態の表現や宇宙空間での危機的状況の演出などは、この時代の映画とすればよくできていて素晴らしいものがある。ただ、終盤に向けてファンタジー色が出てくると途端に映像が古臭くなるのが残念だ。例えると、『フラッシュ・ゴードン』や初期の『スター・トレック』あたりに共通した趣と言ったらいいだろうか。
最後にファンタジー色が強くなるのはまあいいとしても、唐突感があまりに強く、もう少しうまくまとめられたらよかったのに、とも思う。
火星へと航行する宇宙船の中でなぜかヴァン・ヘイレンの音楽に合わせてダンスをするシーンに至っては、何かの伏線かとも思われたが、最後まで特に何もなく・・・。

前述の通り、本作のクライマックスは『2001年 宇宙の旅』へのオマージュになっている(?)ものの、あちらほど難解な、観客に解釈を委ねるものではなく、ちゃんと説明してくれるあたりはデ・パルマは優しい。

 

それと本筋とは関係ないが、この映画には日本にゆかりのある小道具がいろいろ出てきて別の意味で楽しめる要素がある。
冒頭ゲイリー・シニーズがパーティーに現れる時に乗って来た車が、かつてのいすゞの名車「ビークロス」のカスタム車だったり、火星で活躍しているローバー(探査車)が、なんと川崎重工製だったり!(白いローバーの横にしっかりとKawasakiのロゴ)
さらには、火星で使っていたコンピューターのモニターにもSONYのロゴがあったりするので、そういう目線で見てみるのも面白いかもしれない。

 

私的評価:★★☆☆☆

  

ミッション・トゥ・マーズ [DVD]

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38)第9地区

第9地区 (2009年 米・南ア・新)

 

地球に難民としてやってきた異星人と人類の共存を扱ったSF作品。
劇場公開当時にそれなりに話題になり、映画館で観たいと思っていて結局観に行けなかった本作をようやく鑑賞。
結論から言うと、予想以上に面白かった。さすが話題になっただけのことはある出来。

 

のっけからドキュメンタリータッチで物語は進み、異星人対策チームのリーダーである主人公のことを、周囲の人たちへのインタビューという形でその人となりを明らかにしていく。
あまり見たことのない斬新な構成の映画だ。しかも無名俳優ばかりが出演しているのを逆手にとり、余計にドキュメンタリーっぽさを持たせることに成功している。

 

舞台は南アフリカヨハネスブルグ。突如宇宙船で現れた異星人を難民として「第9地区」という隔離区域に住まわせるところから映画は始まる。
やがて20年の年月が経ち、完全にスラム化した「第9地区」の異星人たちを、MNUと呼ばれる超国家的な異星人対策組織が、別の収容施設へ強制的に移住させようと画策するが・・・。

 

主人公はおろか、誰一人として知っている俳優は出てこないし、何よりその内容からB級映画臭が漂ってきそうなものだが、なかなかどうして、細部までしっかりと作られていて好感を持った。

ストーリーの巧妙さであったり、エイリアンの造形の独創性であったり、異星人の兵器やメカ描写のクオリティであったり、低予算なりのアイディアが満載で安っぽさがほとんど感じられない。

 

甲殻類にも似た醜悪な造形の異星人を始め、結構グロい表現があったりするので、そういうのが苦手な人はちょっと注意が必要かもしれない。
アクションシーンもふんだんに用意され、最後まで目を離すことができない。ストーリーの展開上、ご都合主義的な部分も多少目につくものの、総じて時間を忘れて楽しめるタイプのオイシイ作品であった。

 

SF映画の体をなしているが、人間性を持つ(!?)異星人親子との交流や、主人公自身も"徐々に異星人に変貌していってしまう.."恐怖や葛藤など、人間ドラマとしても充分鑑賞に耐えられる。
加えて、アパルトヘイトという騒乱の歴史を持つ南アフリカが"異星人差別"の舞台という、全編を通じて強烈なアイロニーが見てとれる良作でもある。

 

私的評価:★★★★☆

 

第9地区 [DVD]

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37)海街diary

海街diary (2015年 日本)

吉田秋生作の人気コミックの実写化作品。監督・脚本は、昨今は作品を発表する度に話題に上る是枝裕和。出演は綾瀬はるか広瀬すず長澤まさみ他。


鎌倉の古家に住む三姉妹と、父の死をきっかけに一緒に暮らすことになった異母妹による、なにげない"日常"を綴ったほんわかムービー。
図書館でふいに目に止まって以来、原作コミックは既刊のものは読んだことがある。原作を知る者としての感想になることを付記しておく。

基本的に原作を忠実にトレースしており、各エピソードもほぼそのまま描かれているため、原作ファンでもすんなり映像に入っていける。
これ、当たり前に思いがちだが案外難しいのではないだろうか? 映像化するにあたって、諸事由により原作から設定・ストーリーが改変されてしまう例も多々目にするので。
また当然のことながら、原作を知らない人でも、異母妹すずとの出会いから始まるのはコミックと同じであり、得に違和感はないだろう。
ただし、悪性腫瘍により片足の切断を余儀なくされる、すずのサッカークラブのチームメイトが出てこなかったのは少々残念だった。
単に尺の問題だけではなく、末妹すずが想いを寄せることになるこの子自体の存在をなくして、恋愛要素を映画から排除するという狙いがあったのかもしれない。

 

このように、本作は胸キュンなラブ・ストーリーというわけでもなく、大きな事件があるでもない。待ち受けるトラブルに打ち勝っていくようなカタルシスもない。
古都鎌倉での「四姉妹」の"日常"が淡々と、そして時に瑞々しく描かれるだけの内容である。でもなぜかラストまで飽きることはない、不思議な映画だ。
是枝裕和による、光と影、濃・淡のはっきりした映像が、鎌倉の海や空を柔らかく切り取っている。よく知る場所が、ちょっと違って見える。

 

長女役の綾瀬はるかは、当初幸のイメージじゃない! (原作の長女、幸はショートヘアでもっとビシっとした印象) と思っていたが、なかなかの熱演で、これはこれでアリと思えてきた。
さらに、次女、佳乃役の長澤まさみも好演していたが、何と言っても原作のイメージにピッタリだと思ったのは、三女、千佳役の夏帆だ。失礼ながらこの人をこれまで知らなかったのだが、姉妹間の潤滑油という難しい立ち位置を見事に演じていて、一番ハマっていたように思う。

 

そして、四女すず役は、今この役を演じられるのは同名のこの人しかいないでしょ!と思われての抜擢であろう(?)、広瀬すず
初めてお姉さま方に対峙するときにはぎこちない(よそよそしい)感じだったのが、一緒に暮らすうちにだんだんと打ち解けて家族の一員になっていく様をごく自然に演じていて、好印象だった。
また、何とも豪華な共演陣、堤真一大竹しのぶリリー・フランキー加瀬亮樹木希林、といった普段は主役級の俳優たちが脇を固める。
是枝監督の人脈により集まった方々であろうか? 意外なチョイ役で見たことのある人が出てきて安心できる。

 

最後に、この映画、食べるシーンがやたら多いのも特徴のひとつ。それも結構印象的な場面で食卓を囲んでたりする。(これまた原作も同じで食にこだわったシーンが多い)
しかも、そのどれもが実に美味しそう。海猫食堂のアジフライ、山猫亭のしらすトースト、そして、幸田家伝統のちくわカレー等々..うまいこと実写化してくれて感謝感謝。
そんなわけで、お腹が空いているときにこの映画を観るのはあまりオススメできない、と忠告しておこう。

 

私的評価:★★★★☆

 

 

 

36)ブラック・スワン

ブラック・スワン(2010年 米)

 

ナタリー・ポートマンがこの年のアカデミー賞、主演女優賞を獲得した話題作。


この映画、予備知識なしに鑑賞すると、多くの人が「予想してた内容と全然違う!」との感想を持つのではないだろうか?
最初はバレエダンサーの単純な立身出世物語かと思っていたら... 終盤に向けてとんでもない展開に・・・。
バレエを題材としたスポコン物などではなく、サイコ・スリラー、いやホラー映画の類と言い切ってもいいくらいの内容であった。


ニューヨークの名門バレエ団で「白鳥の湖」のプリマに抜擢された主人公ニナ(ナタリー・ポートマン)が、周囲のプレッシャーや自身の神経質な性格からやがて精神に異常をきたし、妄想や幻覚の泥沼に嵌っていく、というのが大まかなストーリー。
とにかくナタリー・ポートマンの怪演が凄い!のひと言につきる作品である。完璧主義ゆえの苦悩、黒鳥をうまく演じられない焦燥、そして徐々に壊れていく複雑な内面の機微を見事に演じ切っている。アカデミー賞受賞も納得の演技。


今までポートマンと言うと、個人的には『レオン』での少女役、マチルダ・ランドーが強く印象に残る。
スター・ウォーズ』シリーズのアミダラ姫も私の中ではイマイチ印象が薄く、いつまでも"子役"のイメージが拭い切れなかったのだが、この作品で彼女に対する印象が完全に変わってしまった。そのくらい存在感がある素晴らしい熱演ぶり。


ただ、良くも悪くもナタリー・ポートマンにつきる映画であり、作品全体の出来としてはあまり面白いものではなかった。
たまたまモチーフにバレエ・ダンサーが選ばれただけで、バレエである必然性はなく、またバレエに対するリスペクトもほとんど感じることができない。もっとバレエの凄さや素晴らしさを表現できても良かったのではないか、とも思う。

 

サイコ・スリラー映画として捉えても、ちょっと中途半端な印象であり、ジワジワくる怖さは正直ない。何より、物語の核心部分を「幻覚に陥る…」として片付けてしまうやり方がどうも好きになれない。さらに、扇情的かつ悲劇的な結末もしかり。
何か悪い夢を終始見させられているようでもあり、人によって好き嫌いがはっきり分かれる作品かもしれない。

 

私的評価:★★☆☆☆

 

 

 

35)マン・オブ・スティール

マン・オブ・スティール (2013年 米)


クリストファー・ノーラン制作、ザック・スナイダー監督による「スーパーマン」のリブート作品。
最近はこの備忘録もめっきりアクション映画づいているが、またしてもアクション・ヒーロー物で失礼。


私くらいの年代でスーパーマンと言えば、クリストファー・リーヴ主演によるスーパーマン旧4部作をまず思い浮かべるが、旧シリーズでは、小難しいことは置いておく、アメリカ映画らしい爽快なヒーロー描写で非常に娯楽性の高い佳作だったと記憶している。


バットマンのリブートシリーズを成功させたクリストファー・ノーランが関わっているということで、全体的なトーンはスーパーヒーロー物というよりも、人間ドラマに重きを置いた作りになっている。
宇宙人がゆえの特殊能力に対する苦悩や葛藤。地球上でどう生きていけばいいのか?を思い悩む姿が描かれ、そこにはいつまでも吹っ切ることができないクラーク・ケントがいる。前半のかなりの尺を使って自分探しの旅に出るクラーク。
よく言えば、リアル志向な大人の雰囲気。悪く言えば、暗くて爽快さがない感じ。


今作の敵はゾッド将軍ということで、正確には『スーパーマンⅡ 』 のリメイクということになりそうだが、このゾッド将軍もバックグランドがより丁寧に描かれていて、 旧作に比べて人間臭い。(宇宙人に対して人間臭い、という表現もアレだが...)
クリプトン人を絶滅させてはならないという信念に基づき彼なりの大義を掲げて戦っている。いわゆる「ガンダム」においてのジオン軍ですな、簡単に言えば。
そのような図式からも、絶対悪をコテンパンにやっつけるという勧善懲悪映画になりきれなかったのは必然と言えよう。


今回スーパーマン=クラーク・ケント役に抜擢されたのは、正統派イケメンの英国人俳優、ヘンリー・カヴィル
前述の通り、どこか物憂げな苦悩するスーパーマンをクールに演じている。いつにも増してマッチョな体つきのスーパーマンだが、より人間味あるキャラ設定のせいか、スーパーマンスーツを着ててもあまり強そうに見えないのが玉に瑕。


共演陣で目を引くのは、地球での育ての父・母にあたるケヴィン・コスナーダイアン・レイン
往年の人気俳優がおとん、おかん役で出て来る意外性は買うものの、クラークの成長への影響部分の描き方が薄っぺらく感じられ、ちょっと中途半端な印象であった。
他のレビューでは、この2人の演技を絶賛している意見もチラホラ見つけられるので、もしかしてTV放映にあたり、重要なシーンがカットされたりしてる??と訝ってしまった。
さらに、竜巻であっさり死んでしまうお父さん... 助けられないクラーク... これはいくらなんでも無理矢理な展開の気がしなくもない。


スタイリッシュな映像表現に定評のあるザック・スナイダーによる緻密に作りこまれたアクションシーンは確かに凄い。一見の価値あり。そのスピード感と底知れぬパワー描写にこだわった戦闘シーンも目を見張るものがある。文字通り桁違いのパワーで建物や街が破壊されていく様は圧巻のひと言。
ただ超人同士の対決ゆえに荒唐無稽過ぎて今ひとつ現実味がないというジレンマはある。こと戦闘シークエンスに関しては、よりリアリティーを目指したこの作品のテーマ性とは対照的であり、どことなくアニメーションを見ているように感じた。興奮度では今ひとつか。


旧シリーズほどの突き抜けたような爽快感は味わえないが、新しい解釈としてのスーパーマン物語に迫った意欲作なのは間違いないだろう。

 

私的評価:★★★☆☆