映画鑑賞備忘録

突然ですが、最近は映画館に行ける余裕もあまりなく... 主にTVで観た旧作映画の感想など思うがままに書き綴っています...。

33)パシフィック・リム

パシフィック・リム (2013年 米)

 

今年の3月くらいにフジテレビの地上波放送を録画したものを先日ようやく鑑賞。全然タイムリーでないことをまず初めにお断りしておく。

 

突如太平洋上に現れ暴れまくる巨大怪獣にイェーガーと呼ばれる人型の巨大ロポットで応戦する人々を描いたSF・アクション大作である。

観る前は当映画についての予備知識がほぼなく、ただのB級ロボット映画だろ..くらいにしか思っていなかったが、ごめんなさい。
色々と突っ込みどころはあるにせよ、ものすごい作品だった。想像以上に楽しめた2時間余りであり、期待してなかった分ちょっと得した気分になった。

 

本作は、ガメラウルトラマン、さらにはエヴァンゲリオンマジンガーZ等々..元ネタがいくつも思いつくほどに日本の"怪獣&スーパーロボット物"に影響されていると感じる。

ただ、日本でこれを実写映画として製作したらとんでもないモノが出来上がりそうであるが、そこはハリウッド。
CGを多用しても適度にリアリティーを醸し出しながら、大人の鑑賞に耐えうる見栄えのある映像に仕上がっている。
イェーガー(スーパーロボット)のリアリティーさや重厚感、戦闘時の挙動や音、敵である怪獣の造形など、子細に渡りよくできていると思う。

かなりの説得力を持って、画面いっぱいに怪獣vs巨大ロボの肉弾戦が展開される。これは映画館で観たかったな..と若干の後悔。

 

出演者は、本作のヒロインである菊地凛子以外は正直あまりピンとこない俳優陣であったが、ほとんど気にならないほどに主要キャスト各々のキャラが立っていて好印象。
主役は怪獣やロボットではなく、あくまで人間であることを強く印象づけることに成功している。

 

最後に蛇足だが...
フジの地上波放映にあたり、【芦田愛菜ハリウッドデビュー作!】という副題が付けられていて、彼女がどんな活躍をするのかと思いきや... 「えっ、これだけ!? これで芦田愛菜をフィーチャーするの?」という疑念しか湧いてこず、完全にチョイ役に留まる芦田愛菜のゴリ押しっぷりに、何か特別な事情⁇と勘ぐらずにはいられなかった。
菊地凛子に謝れ!」と思わず叫んでしまうほどであったと付け加えておく。

 

私的評価:★★★★☆

 

 

 

32)007 スカイフォール

007 スカイフォール (2012年 英・米)

007シリーズのいったい何作目なんだろう? 調べるのも面倒なくらい多く作られているので省略。
ただ、ダニエル・クレイグジェームズ・ボンドを演じ始めてからは3作目だそうだ。
実は昨年の年末に4作目(最新作)の『スペクター』を先に観ていたので、私が鑑賞したダニエル・クレイグ版007としては本作は通算2作目になる。

 

007シリーズは、特にロジャー・ムーア時代の作品は夢中になって観ていた記憶があるが、そこからティモシー・ダルトンを経て、ピアース・ブロスナンの頃の作品は確か2作品くらいしか観たことがないはず…。
ピアース・ブロスナンは、スッキリした長身で、ものすごくカッコいいんだけど、アクション俳優としての"キレ"は何だかイマイチな気がして、ブロスナン・ボンドは正直あまり印象に残っていなかった。
翻ってダニエル・クレイグだが、これまでの歴代ボンドとはややイメージは異なるものの、その研ぎ澄まされた肉体や軽やかな身のこなしで、とにかく強そう..に見えて好き。

今回の『スカイフォール』でも、その不死身なまでに強靭な肉体を遺憾なく発揮したアクションシーンは、観客の期待を裏切らない出来栄えである。
「あの鉄道橋の上から撃たれて峡谷に落ちて、さらに川に流されて..何で生きてるんだよ!?」といったツッコミはさて置き、007シリーズでのお決まりアクションは全編に渡り大いに楽しめると断言しよう。中でも、始まった冒頭での"敵"を追ってのアクションシークエンスが実は一番すごくて、一気に引き込まれる。

 

ストーリー的には特段の"ひねり"は見受けられないが、ほどほどにドキドキ・ワクワクが続くスパイ・アクション大作に仕上がっている。

次作『スペクター』で詳らかにされる、クレイグ・ボンドの出自に関するアレが、本作のタイトルにも繋がっていて面白い。
なるほど。もう本作製作時において、次作を作る気満々でいたわけか..。後作から見始めてしまうとこのような気付きもある。

 終盤では、過去のシリーズでもお馴染みのボンド・カー、アストンマーチンDB5も登場して、007マニアも思わず"ニヤリ"の展開に。

007シリーズをあまり知らない層でもそこそこ楽しめると思うが、007ファンにはさらに深く楽しめる要素満載であり、必見の作品と言えよう。

 

私的評価:★★★★☆

 

 

 

31)ナイト&デイ

ナイト&デイ (2010年 米)

 

 トム・クルーズキャメロン・ディアスの二大スター共演のアクション&ロマンチックコメディ。

 

主人公であるCIAの豪腕スパイ、ロイを演じるのはトム・クルーズ。『ミッション:インポッシブル』のイーサン・ハントと若干キャラかぶりしているが、あちらよりも軽薄かつよりスマートな立ち振る舞い。これぞトム・クルーズを置いて他に誰がやるの?と思えるほどのハマリ役。イメージにぴったり。

アクション俳優としてもはや円熟の域に達しているトムのスタントアクトがたっぷり楽しめるのが一番の見どころか。

トム・クルーズと言えば個人的にはバイクアクション。スペイン・セビリアの街中を真っ赤なドゥカティモタードにキャメロンを乗っけて疾走するシーンは、掛け値なしにカッコいい絵図だ。欲しいな、このバイク、と余計なことが頭をよぎる。

 

相手役のキャメロン・ディアスもその愛らしいすっとぼけキャラを全面に出した自然な演技で好印象。キャメロンじゃなきゃただのイヤミに見えてしまうようなオトボケっぷりが笑いを誘い、ロマンチックコメディとしての体を保っている。

 

全編に渡りどこかで見たことのあるような展開と言えなくもないが、適度に質の高いアクションとテンポよくまとめられたストーリーにより、気負いなく楽しめる娯楽作品に仕上がっている。これぞまさしく「ザ・ハリウッド映画」

ただ、ここまでテンポよくバランスのとれたアクション映画はハリウッドでも意外と希少かもしれない。

一見すると大物スターを起用しただけの話題先行型の作品のようだが、実は細部までよく練られて作られている印象を持った。

 

脚本も基本ハッピーエンドで、最後まで気持ちよく鑑賞できた。一方で、見終わった後に何も残らない感じは拭えない。でも、そういう2時間がたまにはあってもいい。

 

私的評価:★★★★☆

 

 

 

 

30)サウスポー

サウスポー  (2015年 米)

 
ジェイク・ギレンホール主演のボクシング映画。
まさに"王道"という言葉が相応しい。どこも外すことなくボクシング映画のセオリー通りに物語が進む清々しいほどのド定番展開。
つまり、幼少期の苦境(施設育ち) → ボクシングで成功をつかむ → 妻の不慮の死により全てを失う → 新しい師との出会い → どん底からの復活 → そして・・・
脚本的には何の工夫も見られない、既視感たっぷりのストーリー。
 
でも決して嫌いじゃない。何だかんだ言ってもエンターテイメントとしては面白い。だからこそ何度でも題材にされると想像する。
負け犬からの復活劇、そして最後に待ち受ける極上のカタルシス...やはりエンタメ映画はこうでなきゃ…とつくづく思う。
「あ~、いつものマンネリボクシング映画か~」と思いながらも、ラストで泣いてしまった自分がいる。
予定調和だの、定石通りだの、どんなに揶揄されようとも、やっぱり興奮するんだよね。
制作側もその辺りを百も承知のうえで作ってきているのがなおさら悔しい。
 
さらに、これまで「ライトヘビー級のボクサー?? イメージじゃない」と感じていたジェイク・ギレンホールの鬼気迫る憑依演技と、圧倒的リアリティーで迫ってくるボクシングシーンがより一層の興奮を呼び起こすのだろう。
この作品のために肉体改造を果たしたギレンホールのムキムキボディで襲いかかるファイターの姿と、それとは対照的などことなく寂しげで弱々しい普段の表情の演じ分けが素晴らしい。
「これマジに顔殴ってもらって作ったんじゃね?」と思わせるような常に充血し傷んでいる左目であったり、血を吐く場面でドロッとしたいわゆる鮮血じゃない描写など、細かいところでの拘りも好印象。
試合のシーンでは、例えば身体を叩くパンチが、この手の映像作品にありがちな重い"ドス、ドス"というわざとらしい音ではなく、意外と軽めな"ペシ、ペシ"という効果音をもって、より臨場感あふれる仕上がりになっている。
 
そしてなんと言っても、女性やお金、はたまた名誉のためといった動機ではなく、とにかく娘との絆を取り戻すために戦うという主人公の信念が、同じ年頃の娘を持つ身としてはツボにハマってしまった。
実にあざとい。もうこれだけでワタシにとってはお腹いっぱい、号泣路線まっしぐらである。
 
ただ、タイトルの「サウスポー」というネーミングにはちょっと首をひねる。これは邦題だけなのかと思ったら、原題も「Southpaw」だった。
実際映画の中では、サウスポー?それだけ?というのが率直な感想。作中「サウスポー」は最後に取って付けたように触れられるだけで、この映画の本質を全く表現してない。そこだけは外された感じであった。
 
私的評価:★★★★☆
 

f:id:yukkiee:20160606224044j:plain

29)Ray/レイ

Ray/レイ (2004年 米)


言わずと知れた盲目の天才ミュージシャン ”キング・オブ・ソウル”こと、レイ・チャールズの伝記映画である。
レイ・チャールズに関しては、いくつかのヒット曲は知ってはいるが、さほど熱心に聴いたことはないし、何を隠そう彼の音楽に初めて触れたのは、ラジオやレコードではなく映画の中だった。

1980年制作のジョン・ランディス監督の『ブルース・ブラザース』にチョイ役で出演しており、ジョン・ベルーシダン・エイクロイドとの熱のこもったパフォーマンス・バトルは今でもよく覚えている。
私と同年代くらいの人たちの中では、この映画でレイ・チャールズを認識した人、意外と多いんじゃないか?と推察する。
いずれにしても、鑑賞前のレイの知識としてはそんな程度だった。

物語は、レイが17歳の時に南部の故郷を離れ、音楽で一旗揚げようとシアトルにたった一人移住するところから始まり、人種差別、盲目という二重のハンデキャップを背負いながらも成功への階段を駆け上がっていく姿が描かれる。
それらハンデキャップに加えて、幼い頃に自らの不注意から弟を事故死させてしまうというトラウマにより、以降苦悩し続けることになるのだが...。

伝説的ミュージシャンの若き日のエピソードが淡々と繰り広げられていくが、「サクセス・ストーリー」として簡単に片付けられない波瀾万丈の人生が垣間見える。
例えば、自身の苦悩から逃れるために、ある程度成功し家族を持ってからもなお、女性、そして麻薬に溺れていくレイの人生の負の部分もきちんと描かれている。

152分という非常に尺の長い映画だが、不思議とダレることなく鑑賞できる。
伝記映画と言うと、ストーリーが冗長になったりで途中で飽きてしまうことも多々あるが、幼少期の母との思い出がフラッシュバック的に挿入されたり、そして何より、ライブ会場やスタジオでのパフォーマンスとして、その時代時代のレイの代表曲が披露されるので、この手の音楽好きには時間がたつのを忘れるくらい楽しめる。

尚、この母との回想シークエンスは、よく晴れた屋外でのシーンが多用され、心なしか現在の場面よりも明るく美しい映像に仕上がっている。
過去の回想シーンとなると普通なら色調を落として表現したくなりそうなものだが、レイがまだ視力を失う前の"視界"という意味も込められているのか、あえて現在のシーンよりも明るいトーンにして対比させているように感じた。
これは、ラストでレイが麻薬やハンデを克服する際に見える幻覚への伏線にもなっていて興味深い演出である。

本作の多くのレビューにある通り、レイ役に抜擢されたジェイミー・フォックスの"憑依"演技につきる映画でもある。
レイ・チャールズの若い頃とジェイミー・フォックスは、よく見比べてみると素の顔自体はそんなに似てないと思うのだが、ジェイミーがピアノの前に座り、あの肩を強張らせる独特の奏法で曲を弾き始めると、レイ・チャールズそのものに豹変する演技力は素晴らしいのひと言。

元々ミュージシャンであるが故に、ピアノの演奏もボディダブルなど使わずジェイミー自身が全て演じているそうだが、これが作品のリアリティーに寄与しているのは間違いない。
特に、やや上方を向き口を半開きにして微笑する仕草は、まさにレイ・チャールズそのものにしか見えない。アカデミー賞主演賞獲得も納得の演技だ。

2004年、この作品の完成を待つことなくレイ・チャールズは他界してしまう。
まだ映画の余韻が残っているうちに、レイの苦悩や葛藤、そして人生の全てが込められた珠玉の名曲たちを改めて味わいたくなった。

私的評価:★★★★★

Ray/レイ [DVD]

Ray/レイ [DVD]


28)トータル・リコール(2012年)

トータル・リコール (2012年 米)

 
1990年に制作されたアーノルド・シュワルツェネッガー主演の同名SF作品のリメイク。
 
シュワちゃんの方の旧作(以下、旧作)は、映画館にも観に行っていてその後も何度となく鑑賞している。
火星の税関でおばさんの顔が細切れになり、その下からシュワちゃんが登場!とか、火星大気に生身で放り出されて目玉が飛び出る描写など、アクの強い映像で印象に残る良作であった。
 
さて本作はそのトータル・リコールの正統派リメイクなのだが、始まってすぐに旧作とだいぶ趣が違うことに気づく。
本作の世界観は、シュワ版の旧作よりもむしろ原作(フィリップ・K・ディック作)を同じとする『ブレードランナー』に近いかもしれない。
日本語を始めとしたアジア系言語が、主人公が住む貧民層の街「コロニー」に氾濫していて、どことなくシュールな印象を与える映像である。
 
そして、旧作と最も違うのが舞台設定だ。
旧作の主な冒険の舞台は“火星”だったが、本作において主役のクエイド(演:コリン・ファレル)が大暴れするのは、地球上のちょうど反対側に位置する欧州を領土とした「ブリテン連邦(以下、UFB)」になる。
 
前述の「コロニー」と「UFB」以外の地域は化学兵器の使用により居住不可能になったという設定で、コロニーの貧しい住民は、地球のコア(中心)を通る巨大なエレベーター「ザ・フォール」に乗って、UFBへ毎日通勤しているというアイディアが面白い。
さらに、舞台が火星ではないので、旧作での“テラフォーミング”オチを使えない訳だが、ラストも旧作ファンの期待を大きく裏切ることなくうまくストーリーをまとめることに成功している。このあたりの脚本のうまさはさすがハリウッド製大作映画の面目躍如と言ったところか。
 
特撮においても、旧作では手作り感が漂うおどろおどろしいイメージのものだったが、本作は全編に渡りCGで作られていて、より洗練されてスマートなデキになった。ここは制作年度の新しさを感じるところだ。
 
また、旧作よりもさらにアクションに重きを置いている印象で、UFBでのホバー(空中)パトカーでのカーチェイスや、クエイドとメリーナ(本作ヒロイン)への追跡劇、格闘シーンなど手に汗握る展開もふんだんに用意されている。
 
そして何より、主人公・クエイドの妻役にして敵役のローリーが旧作に比べ数段パワーアップしていてびっくり。
旧作のローリー(演:シャロン・ストーン)もその妖艶な魅力に似合わぬ戦闘能力で印象に残ったキャラクターだったが、本作のローリー(演:ケイト・ベッキンセイル)は、旧作の比ではない高い戦闘力でクエイドを激しく追い詰める。このお話の悪だくみの黒幕であるコーヘイゲンを完全に食ってしまう悪役っぷりが実にえげつない。
 
ケイト・ベッキンセイルといえば、その美貌と長身かつプロポーション抜群な容姿から勝手に“おしとやかな女優”というイメージを持っていたが、本作での悪役はいい意味で期待を裏切られた。
シャーリーズ・セロンのように、美形アイドル/演技派/アクション、どれでもOK!的な万能女優を目指せる素材かも..と思わせる熱演だった。
 
本作は、特撮も一定水準以上にクオリティーが高くまた迫力もあり、最後まで飽きさせない適度なサスペンス・アクション映画に仕上がっていて、それなりに面白い作品であった。
ただ、旧作のポール・バーホーベン監督によるあの独特の世界観も自分としては捨てがたく、いやむしろ、旧作を観たときほどのワクワク感は正直味わえなかったコリン・ファレル版でした。
 
私的評価:★★★☆☆

27)グラン・トリノ

 

グラン・トリノ (2008年 米)

クリント・イーストウッド監督・主演作。

 

ちょっと前に同じイーストウッド監督の『インビクタス(20 インビクタス/負けざる者たち - 映画鑑賞備忘録)』を観ていて、あれも実際観てみるまでタイトルの意味がさっぱり分からない映画だったが、今回も当初タイトルの意味がよく分からなかった。
グラン・トリノ?イタリアの街が舞台の映画?程度の知識で見始めたのだが。
 
グラン・トリノ」とは70年代に製造されたフォード車の名称だそうだ。主人公のウォルト(クリント・イーストウッド)の愛車である。
全編を通してウォルトがこの愛車に乗るシーンはないのだが、自宅ガレージで頻繁にメンテナンスしており、非常に大切にしていることが伺える。
 
ウォルトは朝鮮戦争に従軍している元軍人で、兵役後はフォードの工場で長年勤め上げた自動車工でもあり、かつては祖国のために命を賭して戦い、戦場では何人もの敵兵をその手にかけた苦い経験を持つ。
 
妻にも先立たれた頑固な偏屈老人は、いよいよ人生の終盤に差し掛かり、自分のお思い通りにならない親族や周囲の冷たい目線、あるいは世代間ギャップとも言える時代の変遷に苛立ちを隠せない。
昼間から自宅の玄関ポーチで缶ビールを何本もあおり、離れて暮らす自身の息子家族や、移民が増えて治安が悪化していくわが街の姿に日々悪態をつきながら孤立していくウォルト。
 
そんな中、隣家の東南アジア系移民の少年タオが、同じモン族の不良たちにそそのかされ、ウォルトのグラン・トリノを盗もうとしているのを発見する。
物語はこの事件を契機に、モン族一家のその飾らない温かみに触れ、次第にタオやその姉スーと心を通わしていく様子が描かれる。
特にタオに対してはまるで父親のように接し、建築関係の仕事の世話や、この街で男として生きていくためのノウハウ、工具の使い方などを徹底的に教え込む。そう、実の息子では叶えられなかった自身の生き様をタオに刻みつけるように。
 
そんな平和な時間も束の間、タオたちを快く思わない同郷のギャングたちが執拗にタオやその家族にちょっかいを出してくるという雲行き怪しい展開に... ついには、いさかいにケリをつけるため単身モン族ギャングのアジトに向かったウォルトだったが・・・。
 
かつてイーストウッドが演じてきた、ダーティハリーマカロニ・ウェスタンのヒーローのどれとも違うカッコよさ。
そこには単なる自己犠牲のヒロイズムとしては片付けられない深い想いが垣間見える。
 
この映画をもって、演者としては一旦身を引く覚悟を決めたクリント・イーストウッド。まさにこのシーンに自身の役者人生の集大成を投影しようとしたのかもしれない。ウォルトの最後の決断に、イーストウッドが今まで演じてきた数々のキャラクターが交錯して見えた。
 
余談だが、イーストウッドはこの映画で役者として引退表明したものの、その後2012年に『人生の特等席』という作品で、年老いたメジャーリーグスカウトマンという役を好演している。この映画も観たが、なかなか味わい深い演技で、自分はウォルト・コワルスキー役よりもこちらの方が好きかもしれない。
 
タイトルの『グラン・トリノ』は、実は直接的にはストーリーにあまり絡んでこないが、人(登場人物)との繋がりを語るうえで欠かせないアイテムとして登場する。なるほど、このパターンはイーストウッド作品では名作『ミスティック・リバー』に雰囲気は似てるかもしれない。
 
ただし、衝撃的なラストこそあまり変わりばえしないものの、不思議と『ミスティック・リバー』や『ミリオンダラー・ベイビー』ほど本作は後味が悪くない。
ネタバレになるが、この映画は、ウォルトの遺言により譲り受けたグラン・トリノに乗り、風光明媚な海岸線を流すタオの、どこかはにかんだ笑顔で終幕する。
このラストシーンがあるおかげで観客は救われる。ウォルトの生きた証が脈々と受け継がれていることを示唆させる心憎い終わり方だ。
 
私的評価:★★★★☆

 

グラン・トリノ [DVD]

グラン・トリノ [DVD]