映画鑑賞備忘録

突然ですが、最近は映画館に行ける余裕もあまりなく... 主にTVで観た旧作映画の感想など思うがままに書き綴っています...。

55)ザ・ウォール

ザ・ウォール (2017年 米)


イラク戦争を扱った、ワンシチュエーション・スリラー。以前当備忘録でも取り上げた『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のダグ・リーマン監督作品。


イラクの平原にあるパイプライン工事現場に偵察に出かけた米軍兵士の悲劇。

一方に壁だけが残った廃屋を丘の上の茂みから偵察していたアイザックとマシューズ。近くに銃撃された死体は転がっているものの何時間も全く動きはなく、しびれを切らしたマシューズがその場所に近づこうとしたとき、どこからともなく狙撃されてしまう。慌てて援護に向かったアイザックも足を撃たれて命からがら壁の裏側に逃げ込むのだが…。

 

あらすじから『アメリカン・スナイパー』のような狙撃手の対決アクション、もしくは戦争葛藤物かと勝手に想像していたら、全然違っていた。

物語は、基本的にはこの戦場にある「壁」に隠れてスナイパーに対峙する主人公のひとり芝居に終始。端的に言ってしまえば、無線からの声のみで最後まで姿を見せない敵スナイパーとのやり取りだけの映画だ。

 

この手法は、戦争映画と言うよりもむしろ『フォーン・ブース』や『[リミット]』を思い起こさせる。観客は、見えない敵に翻弄され負傷した主人公、アイザックの恐怖を追体験することになる。

圧倒的不利なシチュエーションからどう打開していくのか? 後半に向けて期待が膨らむ、取っ掛かりとしては悪くないアイディアであり、好きな部類の作品だ。

 

劇中全くといっていいほど音楽もなく、音はアイザックの極限状態の息づかいやスナイパーを罵倒するセリフ、無線越しに語りかけてくる敵の不気味な声、あるいは風の音などの環境音のみ。この本当に情報が限定された世界観が奇妙なリアリティーを生んでいる。

ワンシチュエーションながら緊張感が持続するダグ・リーマンの演出はさすがだ。また上映時間が90分程度と短めなのがこの作品では非常に重要で、観客を飽きさせる一歩手前で踏みとどめさせていると感じた。

 

ただし、この手の映画は、ラストにどう上手くまとめるか、あるいは予想外のどんでん返しがあるのか、で作品の評価が左右されるはずだ。破綻なく納得感のある結末を迎えるのは実は相当難しいだろうと推察する。

上で似た作品として例に挙げた『フォーン・ブース』も中盤まではホントに面白かったのだが、個人的には、ラストは納得感がイマイチの印象で少々がっかりした思い出がある。

本作も最後は観てる者を若干裏切る結末になってはいるのだが、もう一ひねりを期待してしまうは贅沢だろうか。

 

私的評価:★★★☆☆

 

ザ・ウォール(字幕版)
 

 



54)ワイルドカード

ワイルドカード (2015年 米)

ここ最近ジェイソン・ステイサムの過去のアクション映画を何本かまとめて観たのだが、その中で特に印象に残った『ワイルドカード』が本日のお題。

監督は、『コン・エアー』やステイサムも出演していた『メカニック』『エクスペンダブルズ2』を撮ったサイモン・ウェスト。アクション映画演出はお手のモノの御人だ。尚、この監督のフィルモグラフィーは決して嫌いではない。


舞台はラスベガス。セキュリティサービスという名の”用心棒”を生業とした元特殊部隊員のニック・ワイルド(ジェイソン・ステイサム)の活躍と苦脳を描く。

何者かに暴行を受け重傷を負った元恋人に、犯人に復讐してほしいと懇願されるニック。ラスベガスにようやく自分の居場所を見つけ、あまりトラブルに巻き込まれたくないニックは、最初こそ断るものの、生来の正義感から復讐の手助けを引き受けてしまう。その復讐相手がマフィアの二代目だったことから話がややこしいことになっていく… というのが大まかなあらすじ。

ストーリーとしてはよくありがちな展開だが、これがなかなか面白かった。ただのアクション映画とは一線を画す男の悲哀が描かれていて奥深い。

 

格闘技無双のステイサムは本作おいても健在だが、『トランスポーター』シリーズなどとはちょっと毛色が 違う雰囲気。

まず何よりアクションが意外と少ない。全編で明確なバトルシークエンスと言えるのは実は3シーンほどしかない。

純粋にジェイソン・ステイサムのアクションを見てスッキリしたいという層は、地味で面白くないという評価を与えそうだ。だが、この数少ないアクションシーンがそれぞれ濃厚かつスタイリッシュに仕上がっている。

手法としては、今時としては陳腐になりかねないスローモーションを多用した格闘アクションだが、撮り方を工夫していて見応えがある。思わずアクションシーンだけリピートしてしまったほどだ。特に最後のマフィアをバターナイフとフォークだけでまとめてぶっ倒すシーンは必見。

 

さらに、過去を引きずりながらラスベガスという狭い土地でくすぶり続ける男の悲哀をジェイソン・ステイサムが丁寧に演じていて好印象を持った。

ラスベガスに嫌気が差し、離れたいと思いつつもギャンブルから逃れられない、強い肉体とは裏腹の弱い心の機微をうまく表現している。

これまでステイサムがこんな繊細な演技ができる俳優というイメージがなかったので、いい意味での驚きであった。

 

ステイサムアクション万歳!という映画では決してないが、ラストに向けてのカタルシスも用意されており良質なハードボイルド作品となっている。

 

私的評価:★★★★☆

 

 

 

53)ビッグ・フィッシュ

ビッグ・フィッシュ (2003年 米)

奇才、ティム・バートン監督によるハートウォーム・ファンタジー。
ティム・バートンの作品は結構網羅していたつもりだが、未見のものもいくつか残っていて本作もその一つだった。

 

不治の病に倒れた父のおとぎ話のような波瀾万丈の人生を息子がトレースしていく物語。そんなあらすじだけ見ても否応なしに期待が高まる。

誰に対しても自身の冒険ホラ話を聞かせるのが大好きな父・エドワード。そして、小さい頃はそんな父の話が大好きだった息子のウィルも成長とともにその荒唐無稽さに気が付き、嫌悪感まで抱くようになり徐々に疎遠になっていく。
どこまでが本当か分からない父の若き日の思い出話と、年老いて病に倒れたその父に会いに行く現在の息子夫婦の場面が、交互に切り替わりながらストーリーは進行していく。

 

父の思い出のおとぎ話のシーンでは、まさにティム・バートン節が全開で、実に色彩豊かな美しく、摩訶不思議な映像世界が繰り広げられる。
一方、現在の父が病床の場面では、そういったファンタジー色を排しやや暗めのトーンになっていて、回想と現実の場面対比が面白い。

 

やがて父の死期が近づき、長くわだかまりのあった父と息子がホラ話で分かりあい、次第にファンタジーと現実が交錯していく終盤にかけての展開が絶妙だ。
今わの際に、息子が父を抱きかかえて川に連れていき、そのまま川に落とすと、父が大きな魚に変身して泳いでいくシーンは本作のクライマックス。
そして、父の葬儀には、父のおとぎ話の登場人物たちが皆集まってきて故人を偲ぶ。「父の話が"若干脚色された"本当の話だったこと」や「父がいかに多くの人に愛されていたのか」を息子夫婦とともに観客の私達は気づかされることになる。
そんな優しいラストに自然と涙がこぼれる、実に心地のいい映画だった。

 

若き日の父・エドワード役のユアン・マクレガーの笑顔を絶やさない溌剌とした演技に何かと目が行きがちだが、死を目前にしながらも、人を楽しませることを忘れないどこかお茶目な現在の父を演じたアルバート・フィニーと、そんな父を静かに見守る母役のジェシカ・ラングの好演なくしてこの映画は語れないだろう。
特に、死期を悟った父(フィニー)が、ビッグ・フィッシュよろしく水を張ったままのバスタブにパジャマを着たまま沈んでいる(隠れている?)のを母(ラング)が見つけ、そのままお互い無言のままでバスタブで抱き合うシーンは必見だ。
老齢に差しかかった夫婦が見せたこの何とも素敵なシーンは、私がこれまで観た映画の中でも5本の指に入る名ラブシーンとして推薦したい。

 

私的評価:★★★★★

 

 

 

52)ブエナ★ビスタ★ソシアル★クラブ

ブエナ★ビスタ★ソシアル★クラブ (1999年 独・米・仏・キューバ合作)

アメリカ人ギターリストのライ・クーダーが、中米キューバの忘れ去られていた老ミュージシャンたちを集めて制作した同名アルバムの映像化作品。
監督は、『パリ、テキサス』などで知られるドイツの名伯楽、ヴィム・ヴェンダース
肩の力が抜けたご機嫌なキューバ音楽を存分に堪能できるドキュメンタリー映画だ。

 

内容としては、キューバ・ミュージシャンたちの世界ツアーでのライブ、レコーディング風景を主軸に展開していく。(オランダ、アムステルダムでのライブで始まり、終盤ではなんとニューヨーク、カーネギーホールでの映像も収録)
そのあいだあいだにミュージシャン一人一人にスポットを当て、地元ハバナでの日常や自らの生い立ち/音楽歴など、インタビュー形式の独白が挟まりながら進行していく形式。

 

道路際の海岸線に打ち寄せるカリブの白い波しぶきと街中をゆっくりと流す年代物のクラシック・カー... キューバハバナの街並みは、行ったことがないのにもかかわらずどこか懐かしく感じる。
それらのノスタルジー溢れる背景描写と、時には力強く、時には優しく奏でられるキューバ音楽との絶妙な乾いた空気感が、とにかく心地いい映画だ。

 

90歳代を最高齢としたキューバの音楽小僧たちは、皆それぞれに個性的で楽しい。ここでは60歳くらいでは若手扱いだ。慎ましくも実にたくましく、まさに人生を謳歌している連中だ。
作中でライ・クーダーの息子が語った台詞「何気なく地味だがとても力強い」が彼らをうまく形容している。

 

最近ローリング・ストーンズのライブドキュメンタリー『シャイン・ア・ライト(2008年 米 監督:マーティン・スコセッシ)』も観たばかりで、あちらも最高にカッコいいジジイたちのゴキゲンな映画だったが、本作も違った意味でカッコいい爺さんたちに出会える。そして最高に"癒される"映画でもある。難しいことは抜きにして、とにかくこの情景と音楽に身を委ねたい。

 

私的評価:★★★★★

 

ブエナ★ビスタ★ソシアル★クラブ  Film Telecine Version [DVD]
 

 

 

51)13時間 ベンガジの秘密の兵士

13時間 ベンガジの秘密の兵士 (2016年 米)

2012年にアフリカ・リビアベンガジで実際に起こった「アメリカ在外公館襲撃事件」をテーマとした、Based on True Storyの作品。

 

監督はマイケル・ベイブロックバスター映画を作らせたら右に出る者はいないと称される、言わずと知れたエンタメ映画界の巨匠である。
そんなマイケル・ベイが、実際に起こった事件を題材にどんな映像を撮ったのか興味があったので鑑賞に至ったわけだが、ひとことで言ってしまうと、結構面白かった。

 

やはりマイケル・ベイマイケル・ベイ。史実を題材にしていても、緊張感みなぎる戦闘シーンとド迫力映像で、エンタメ要素満載の娯楽映画にしてしまう強引さは、もはや潔いを通り越して芸術に域に達していると言えよう(褒め言葉)。
そこには、イスラム過激派や現地民兵が在外アメリカ公館をなぜ襲撃したのか?などの考察や社会的メッセージは皆無。
「理不尽に攻撃してくる敵に立ち向かったこんなアメリカンヒーローたちが実際にいたんだよ、どうだ、カッコいいだろ!?」が伝わってくるのみである。
確かにカッコいい。カッコいい兵士を撮らせると本当に上手い監督だ。

特に本作のクライマックスである、現地CIAの"隠れ家"にろう城しての近距離銃撃戦の描写は凄まじいリアルさだ。暗闇から忍び寄る敵を一人また一人と撃ち殺していく様は、よくできた戦争ゲームを見ているようでもある。

 

さらに、終盤には敵の迫撃砲が"隠れ家"に撃ち込まれるのだが、飛び出す迫撃砲が着弾するまでの迫撃弾目線の映像が、あの懐かしの『パール・ハーバー』での爆撃機から投下される爆弾目線を彷彿とさせる、おまけのシーンがあり、ベイファンの拍手喝采が聞こえてきそうだった。

 

Wikipediaによると、本作は日本では劇場公開されずにビデオスルーされたようだが、あまり日本人に馴染みのない事件が題材なことと、ベイ映画には珍しく一部にゴア表現があることが原因かもしれない。いつものマイケル・ベイもののご多分に漏れず、映像のクオリティーは素晴らしいだけに少し残念な気もする。

 

ちょっと前に、イラクでの米兵士の活躍を描いた『グリーン・ゾーン (2010年 米)』という、一体どこまで実話なの?これは社会派?エンタメ?のようなどっちつかずの感想を持った映画を観たばかりだったが、そちらに比べると純粋に娯楽映画として楽しめる作品であった。そう、本作はあくまでエンタメ娯楽映画なのである。

 

私的評価:★★★★☆

 

 

 

50)エクス・マキナ

エクス・マキナ (2015年 英)

AIヒューマノイドの反乱を主軸においた密室サスペンス。 レックス・ガーランド監督作品。

耳馴染みのないタイトルの「エクス・マキナ」とは、ラテン語で「機械仕掛けの~」といった意味だそうだ。
元々はギリシャ悲劇などの「デウス・エクス・マキナ」と呼ばれる演出技法からきていて、物語の内容が混沌としてきた時に、突然現れた"神"が一気に難題を解決してしまうやり方を指す。
その神がクレーンのような機械の仕掛けで突然現れる様を由来とする言葉なのだそうだ。
女性型ヒューマノイドを、物語を悲劇的に解決する「神」として、比喩的に表現したタイトルということか。

 

GoogleあるいはFacebookを彷彿とさせる、IT企業「ブルーブック」で働く若手エンジニアのケイレブは、社内の抽選でブルーブックの社長であるネイサンの別荘を訪問する機会を得る。
山深い場所にあるそのネイサンの別荘とは、実は人工知能の研究開発施設で、ケイレブは抽選で選ばれたわけではなく、訳あってネイサンが指名したものだった。
別荘には当初ネイサン以外の人間はいないかと思っていたケイレブは、その後女性型ヒューマノイドエヴァと対峙することになっていく。

 

一風変わった作風の映画だが、舞台となる山岳地帯の自然や強化ガラスの扉で覆われた未来的な別荘など、その斬新な映像は非常に美しい。
あえて峻険な環境にある"山荘"を舞台としたことで、別荘内部のハイテク設備の奇異さが一層きわ立ち、また外界との隔絶よる密室感も適度に高まっている。うまい演出だ。
登場人物が限られる密室劇であるがゆえに、会話中心のストーリー展開になるが、AIに関する興味深いうんちくが個人的にはとても面白く、全く飽きることがなかった。

 

ヒューマノイドエヴァは、顔は人間だが、お腹周り、腕、足が半透明で、内部で青色LEDが光っているのが透けて見える構造になっており、演じるアリシア・ヴィキャンデルの美貌と相まって何とも幻想的だ。
アリシア・ヴィキャンデルはこの作品で初めて見たと思っていたのだが、実はこれを見るよりも前にスクリーンでお目にかかっていたことに後で気が付いた。(最近こんなのばっかりだが)
マット・デイモンの『ジェイソン・ボーン (2016年 米)』においてヒロイン役で出ていたあの女優さんであった。Wikipediaによると北欧スウェーデンの出身らしい。ややエキゾチックな顔立ちの正統派美人ゆえに、魅惑のロボット役がよく似合う。

 

昨今売り出し中の若手俳優が揃って出演しているのもこの映画の特長のひとつ。
主演のケイレブ役は、最近話題作に立て続けに出演している、若手の注目株ドーナル・グリーソン。
アリシア・ヴィキャンデルは、上述の『ジェイソン・ボーン』のほか、2015年には『リリーのすべて』でアカデミー賞助演女優賞を獲得して一気にブレークした。
一方のネイサンは、顔面に髭を蓄え、筋トレに余念がないアル中気味の天才創業者という役どころなのだが、序盤から抜け目のない怪しい雰囲気を醸し出していて最も印象深い。
演じる役者名を見ると、オスカー・アイザックとある。オスカー・アイザック..? なんと、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のポー・ダメロンであった。
同一人物には全く見えない。恐ろしい性格俳優ぶり。

 

劇中の様々な効果音や音楽などもクオリティーの高い映像にマッチしていて違和感がない。エヴァが素早く動く際に発する何とも形容しがたい音や、ケイレブの心情に呼応するかのような、静かだがお腹のあたりにジワジワくる音楽も絶妙だ。

 

AIが創造主である人間に対して反抗する、もはや手垢にまみれたテーマだが、本作は静かにそして淡々と遂行されるところが新しい。当然「スカイネット」のような派手さこそないものの、ある意味『ターミネーター』以上に怖い映画だ。
終盤エヴァが一人で別荘を出て行こうとするときに後ろを振り返り、劇中最初で最後の笑顔を見せる。このシーンには背筋に冷たいものを覚える。それは誰かに見せるためのものではなく、目的が達成されたことへの満足感から自然発生した笑顔であったからだ。

若干のエロいシーンも盛り込まれ、R-15指定の作品になっているが、妖艶な女ロボットによる静かなる反乱は一見の価値ありと言っておこう。

 

私的評価:★★★★☆

 



49)アフター・アース

アフター・アース (2013年 米)

 

このところSF映画の備忘録が続いているが、またしてもSFで失礼。

出演者も含め全くの予備知識なしで鑑賞し始め...あれ?いつもとは若干雰囲気の違うウィル・スミスが出ているぞ..さらに、息子役の子は本当にウィル・スミスに似ているなー..と思っていたら、ウィルの実子のジェイデン・スミスだった。親子共演でかなり話題になった『幸せのちから』を見たことがあるのに、最初は全然気が付かなかった。

あらすじとしては、人類が地球とは違う別の天体に移植してから1000年後の物語になる。
人類にとってヤバイ怪物に対抗する特殊能力を持つ伝説の兵士、父スミスは、最後の任務に半人前兵士である息子スミスを同行させる。
目的の天体に向かう途中で、搭乗する宇宙船が事故に遭い、ある惑星に不時着(墜落?)してしまう。
生き残ったのは、瀕死の重傷を負って動けなくなってしまった父スミスと息子スミスの二人だけというヤバイ状況。
意を決して、息子スミスが、宇宙船墜落の際に100km先にバラバラに墜落してしまった船尾部分にある救難信号の発信機を取りに向かうところから本筋が始まる。

 

この不時着した惑星とは、人類がかつて環境汚染のため放棄した"地球"だったのだ。
1000年後の地球は、夜になると極度の低温になりヤバイ、酸素供給器具なしではほとんど呼吸もできなくてヤバイ、そして何より、人間に襲いかかる獰猛な生物がうようよしていて相当にヤバイ星になっていた。
果たして息子スミス君は無事救難信号機を持ち帰れるのか!?
取っ掛かりとしては悪くない。ワクワクさせる導入部で一気に引き込まれた。

母船にいる瀕死の父は通信機を通して息子にアレコレ指示を与え続け、息子は苛烈な環境の地球で様々な障害を乗り越えて、ついには船尾にたどり着く。
そして、因縁の怪物との宿命の対決が迫るのだが・・・。

 

この映画では、壮大なスケールと多額の予算をかけたスミス家長男の独り立ち物語を見させられるワケだが、確かに、VFXを駆使したクリチャーや未来的ギミックは臨場感があり、また独特の世界観もある。
一方で、苛烈な環境であるはずの未来の地球が、全くそのような環境に見えず、緑あふれる実に美しい星に見えてしまうのには若干の違和感があった。
大昔に去った人類に「隔離惑星」と認定されていた地球が、人間というガンがいなくなり、浄化され現在は居住できる環境に戻っていた、のようなオチを期待していたのだが、最後まで特にそのような描写は見られなかった。

 

主演のジェイデン君はかなり頑張っていた。父親への対抗心でやたらと強がってはいるが、いつも何かに怯えているような弱々しい少年から、極限の経験を経て、"漢"になっていく心情の変化をうまく表現できていたと思う。
父ウィルもニコリともしない威厳のある父親役で、いつものおちゃらけた印象とは一線を画す新境地の演技。
あえて未来の地球が舞台のSFとしたことで、突っ込みどころが増えてしまったワキの甘さは気になるものの、同じ年頃の息子を持つ父親としては十分共感できるし、終盤まで飽きさせない展開で脚本自体は悪くないと思う。

 

実を言うと、個人的には一番のサプライズは映画を観終わった後に待っていた。
何と監督が、M・ナイト・シャマランだったのだ。これには終わるまで気が付かなかった。予備知識ゼロで見るのも良し悪しかな、と最後に思った次第。

 

私的評価:★★★☆☆